432部分:第三十三話 鈴虫その八
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第三十三話 鈴虫その八
そうしてだった。そのうえでだ。
また笑顔になる。しかしだった。
真理は不意にだ。身体を屈めた。そう見えた瞬間にだ。
大きく咳込んだ。何度も。その口を両手で押さえる。そしてその手の間から。
赤いものが出て来た。それは流れ落ち紅葉にまで滴る。それを見てだ。
義正も真理もだ。宗伯になり言うのだった。
「これだけの血が吐かれたことは」
「ありませんでした」
そうだったと答える真理だった。
「これは」
「多いですね」
他に言葉がなかった。義正といえども。
そしてその顔を青くさせてだ。彼は沈黙した。
その彼にだ。真理はこう言った。
「今は十一月ですね」
「はい」
時間の話だった。今彼女がしたのは。
そして義正もその話を受ける。そうするとだ。
真理は彼が自分の言葉を受けたのを見届けてだ。こうも言うのだった。
「秋はもうすぐ終わりですね」
「冬ですね」
「冬に言われました」
かつて医師に言われたことをだ。真理は義正に再び話したのである。
「私の命は一年だと」
「そしてその冬が来るというのですね」
「はい、その一年が」
期限だった。その期限を思うとだった。
真理は蒼白になりだ。そして言葉を出していった。
「間も無く来ようとしています」
「その一年で、ですか」
「私は」
肉体としての生を終えるというのだ。そしてそれは同時に。
桜を三人で見れないということでもある。そのことについて言うのだった。
「できないのでしょうか」
「その吐血を見て」
「そう思うのですが」
「いえ」
義正は何とか己の言葉を否定しようとする。それ以上に真理の言葉を。
だがそれができずにだ。彼は沈黙していた。
しかしだった。真理はだ。
蒼白になりながらもだ。何とかこう言うのだった。
「しかしですね」
「しかしですか」
「病は気からでしたね」
ここで言ったのはこのことだった。
「心が沈めばそれからでしたね」
「はい。そう言われていますね」
「なら。今もですね」
何とか気を取り直しつつだ。真理は言うのだった。
「吐血をしても」
「まだですか」
「あと数ヶ月だけです」
あえて短く考えた。時を。
「数ヶ月だけ頑張ればいいですね」
「数ヶ月だけ、ですね」
「はい、それだけですね」
真理はこう言っていく。
「それだけです。それに」
「それにとは」
「私は久し振りに血を吐きました」
この間それはなかったというのだ。
「これまでは咳だけでした」
「そうでしたね。吐血はでしたね」
「ありませんでした。ですから久し振りに吐いただけで」
「特に気に止められることはないと」
「そういうものでしょうか」
こう考えて言う
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