430部分:第三十三話 鈴虫その六
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第三十三話 鈴虫その六
「とてもです」
「そうですね。花にはない美です」
「枯れているのでしたね。紅葉達は」
「そうです、その証拠に緑ではありません」
紅葉も本来は緑なのだ。しかし枯れてだ。
この色になっていくのだ。つまり紅葉の色は生ある色ではないのだ。
枯れる、散る色だ。だからこそ下にも散ってだ。紅や黄金、橙になっているのだ。三色の絨毯が今三人の足下に見事に広がっている。
そうしたものも見てだ。義正は真理に話す。
「そして散ってもいます」
「確かに。散ってもいますね」
「おわかりですね。この紅葉達が散れば」
「後に残るのは枯れ木ですね」
「冬の木です」
まさにそれだった。しかしだった。
その冬の木についてもだ。義正は話した。
「ですがその木達もです」
「生きているのですね」
「そうです。死んではいません」
そうなってもいるというのだ。散ってもだ。
「ですから」
「悲しむことはないですね」
「生きているのですから」
「生きる。これからもですね」
「何度かお話した通りです」
その生死に関すること、それだった。
「そういうことです」
「そうでしたね。私は生きるのですね」
「無論私もその時が来れば」
身体での生がなくなる、そうなればだというのだ。
「多くの方々の中で生きます」
「そうなりますか」
「そうです。ですからこの紅葉達もです」
「この色になって散って終わりではないですか」
「それは新しい生のはじまりなのです」
生から死ではなくだ。生から生だというのだ。
「そういうことなのです」
「そうですね。では」
「はい、それではですね」
「もっと見回りましょう」
こう言う義正だった。
「そうしていきましょう」
「はい、それではですね」
「行きましょう」
こんな話をしてだった。三人でだ。紅葉の中を進んでいく。
そしてその中でだ。一輪の紅葉がだ。
真理の前に落ちてきた。それをだ。
真理は手に取った。その舞い落ちる紅葉をだ。
そうしてだ。その小さな紅を義正に見せて言うのだった。
「小さいですけれど」
「秋ですね」
「そうですね。これだけで秋ですね」
「秋は。今はあらゆる場所にあります」
義正もその小さな秋を見ながら真理に述べる。
「その紅葉と同じで」
「そうですね。それでなのですが」
「その紅葉をですね」
「この子にあげたいです」
今日も背負っている我が子を見て言うのだった。
振り向くとそこにいる。そしてその我が子にだ。
微笑みを向けそうしてだ。優しい声で述べたのである。
「この秋を」
「はい。それではですね」
「そうしましょう」
こう話してだった。二人でだ。
義正に顔を向けてだ。そして言うのだ
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