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儚き想い、されど永遠の想い
420部分:第三十二話 紅葉その十

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第三十二話 紅葉その十

 糸瓜に似ているものが幾つもぶら下がっている。確かに糸瓜に似ているがその上が空いていて中には液が入っている。それを見てである。
 真理からだ。戸惑う様な声で義正に尋ねた。
「これは一体」
「ウツボカヅラです」
「ウツボカヅラですか」
「この中に入った虫を溶かし栄養にします」
 それがウツボカヅラのやり方だというのだ。
「中に入れば終わりです」
「そうなのですか。これもまた」
「怖いと思いますか」
「やはりそう思えます」
「それと共に不思議ですね」
「はい、とても」
 恐怖と共に神秘的なものを見る顔でだ。真理は答えた。
「植物には思えません」
「ウツボカヅラもまた」
「そうです。ただ」
「ただ?」
「妙に。お花とはまた違って」
「目を止めてしまいますね」
「そうなってしまいます」
 実際にそうだと答える真理だった。そうしてだ。 
 この日も背負っている義幸に顔を向けて。尋ねたのだった。
「この子は今日も見ていますね」
「はい、この草達をですね」
「そうですね。この不思議な花達を」
「何か思われませんか」
 義正は話題を変えた。様に見えた。
 彼等が今いる温室、熱帯の植物達の部屋を見回しだ。真理に尋ねた。
「この温室の中にいて」
「この中にいてですか」
「何か思われませんか」
「何処か。懐かしくも思えますが」
「こうした。熱い緑の中はです」  
 その中は何なのか。彼は自分と同じく温室の中を見回す妻に述べた。
「生まれる前の世界がこうだと言われています」
「この世界がですか」
「はい、この世界がです」
 まさにそうだというのだ。この世界がだ。
「生まれる前のその世界だとです」
「だから懐かしく感じるのですか」
「そう言われています」
「そうなのですか」
「はじめて聞かれることですか」
「はい、どうも」
 その通りだとだ。真理は述べた。
「生まれる前の世界はそうした世界なのですか」
「あくまで一説にはですが」
「では他の世界から生まれ変わる前にですね」
 真理は輪廻転生からだ。義正に話した。
「その世界に入りそうして」
「そうです、生まれます」
「そうなのですか」
 考える顔でだ。真理はまた義正に述べた。
「では私達がこの世界に出て来る前にですね」
「回廊の様な世界でしょうか」
「その世界がこうした暑くさえあって」
「植物が生い茂っています」
「不思議な世界ですね」
 その世界自体にだ。こうも述べた真理だった。
「夢幻と言うべきでしょうか」
「夢幻ですか」
「熱い夢幻。そう思います」
 儚いものはなくだ。そうしたものだというのだ。

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