巻ノ百二十六 軍議その十二
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「完全に囲まれた城じゃ、そこに篭っているだけの者に誰がつくか」
「そう考えると」
「篭城は下の下以下じゃ」
「ですから絶対にですな」
「すべきではないが」
「しかし兄上は」
「お止め出来なかった」
何もわからずそして知らぬ茶々をというのだ。
「それでじゃ」
「我等は負けますか」
「わかっておったがな」
「兄上は茶々様をお止め出来ぬ」
「それを言うと我等も他の者もな」
今大坂にいるどの将帥達もというのだ。
「出来ぬわ」
「口惜しいことですな」
「全く以てじゃ」
「まことに治部殿達がおられぬのが惜しいですな」
「茶々様をお止め出来たからな」
「そしてもっと言えばな」
苦い顔のままでだ、治房は治胤にさらに話した。
「大納言様がおられれば」
「そうなりますな」
「茶々様のご勝手なぞ全て止められてな」
石田や大谷以上にというのだ。
「上様も導かれてじゃ」
「豊臣家は安泰でしたな」
「そう思うとまことに惜しい」
「大納言様がおられぬことが」
「今も豊臣家の執権どころか」
「上様のご後見としてじゃ」
その立場でというのだ。
「豊臣家を守られていたが」
「今言っても仕方ありませぬな」
「そうなる、しかし兄上については」
また大野のことを言う治房だった、彼等の兄のことを。
「執権としてどうか」
「豊臣家の」
「そう思う、実にな」
「そうですか、しかし」
「兄上もじゃな」
「必死ですから」
治胤はこう言って彼等の兄を庇った。
「我等はその兄上を盛り立て」
「そうしてじゃな」
「豊臣の家を守っていくべきです」
「それはわかっておる」
「では何とか」
「うむ、兄上が茶々様をお止め出来ずともな」
このことを口惜しいと思ってもというのだ。
「豊臣の家臣としてな」
「働いていきましょうぞ」
「わかっておる」
こう答えはした、だが治房は兄のこの度のことに苦々しさ、もっと言えば情けなさと豊臣家の行く末に暗いものを感じずにはいられなかった。しかし彼がその暗いものがこれからどうなっていくかはわかっていなかった。
巻ノ百二十六 完
2017・10・8
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