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儚き想い、されど永遠の想い
414部分:第三十二話 紅葉その四

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第三十二話 紅葉その四

「どういう意味でしょうか、一体」
「そのことかい」
「はい、それは」
「僕の中で生きるんだよ」
「お兄様の中に」
「そう、そして義美の中にも」
 ひいてはだ。彼女もだというのだ。
「あの人は生きるんだよ」
「私の中にもですか」
「あの人のことを覚えておいてくれるね」
「はい」
 それはその通りだとだ。義美もこくりと頷いて答える。
「あの方のことは私も」
「そうだね。覚えておいてくれるね」
「素晴らしい方です。私のお義姉様のお一人でもありますし」
「だからこそ」
「はい、決して」
 義美は確かな声で答える。
「忘れません」
「忘れない。それなら」
「それならですか」
「あの人は義美の中でも生きるんだ」
 彼女にしてもだ。そうだというのだ。
「そういうことだから」
「お兄様の中でも私の中でも」
「そう、他の多くの人の中でも」
「世界はそれぞれでしたね」
 義美はまた言った。
「私達が今こうして過ごしているこの世界だけではなく」
「仏教では六界があるね」
「その六つの世界のうち人界が私達の今いる世界で」
「天界や地獄界もあるね」
「そうした世界も含めてですか」
「世界は幾つもあるんだ。それに」
「はい、わかりました」
 義美は察しがいい。兄弟の中で最も聡明だとさえ言われている。その為義正だけでなく義愛や義智、そして両親達も彼女と何かと相談して決めている。
 その鋭さを生かしてだ。義美は言うのだった。
「世界は私達自身もですね」
「そう。それぞれが世界なんだよ」
「その世界それぞれのお義姉様は生きられるのですね」
「永遠にね」
「そうですね。そうなりますね」
「最初は悲しんだよ、僕も」
 真理が死ぬ、そう考えてだ。
「けれどね。そうした考えに至ったんだ」
「お義姉様はそれぞれの世界で生きられる」
「肉体は死んでも魂は不滅だから」
 東洋だけではなく基督教にもある思想だ。魂は死なないというのだ。
「だからね」
「それでお義姉様もその魂が」
「生きるんだ」
 またこう言うのだった。
「そう、肉体は消えてもね」
「そうですね。しかしですね」
「この人界での思い出を作りたいんだ」
 何故三人でいつもいるか。その理由も話した。
「そうしたいんだよ」
「それを春までですね」
「春。長いかな」
 義正は先を見る目で述べた。

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