413部分:第三十二話 紅葉その三
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第三十二話 紅葉その三
「そう。夏でも何の心配もなく氷室の様なものが使えれば」
「食べものの保存も容易になりますね」
「そうしたものもやがては欲しいね」
「百貨店がより発展する為に」
「そう、その為に」
こうした話をしてだった。義正はだ。
百貨店のことも考えていた。その彼にだ。義美はこんなことも話した。
「それとなのですが」
「それととは?」
「はい、お義姉様ですが」
真理のことをだ。彼女は兄に話してきたのだ。
「今はどうされていますか」
「落ち着いているよ」
「左様ですか」
「体調もいいし。大丈夫だよ」
「そうですか。それはいいことですね」
義正からそのことを聞いてだ。義美も笑顔になる。
そうしてだ。兄にこう話すのだった。
「実は一つ贈りものがありまして」
「贈りもの?」
「二階の衣料の店に置いてあります」
「二階の。というと」
「はい、和服です」
それをだとだ。用意してあるというのだ。
「お義姉様とそれに」
「それにというと」
「お兄様と。義幸君のものも」
「三人共なのか」
「はい、置かせてもらいました」
そうしたとだ。義美は彼に話すのである。
「私が買って。そこに置かせてもらいました」
「和服の。八条屋の」
「あのお店も八条財閥のお店ですから」
「そうだったね。あの店もね」
八条財閥は和服にも携わっているのだ。それを考えると実に多彩な財閥である。
「そしてあのお店で」
「買って置かせてもらいました」
「僕達への贈りものなんだ」
「とりわけお義姉様に」
「有り難う。それじゃあ」
「受け取って頂けますね」
「喜んでね。済まないね」
妹のその心遣いがだ。彼は今心から嬉しかった。
それでだ。こうも言うのだった。
「真理さんは本当に幸せだね」
「そうですね。本当に」
「あの人は絶対に春までね」
「生きられますね」
「そうするよ。何があっても」
こう話すのだった。
「春まで。そして三人で」
「春というと」
「桜を見るよ」
この花だった。春を、日本を象徴するその花だった。
「それをね」
「そうしてその花を見て」
「あの人は眠るんだ」
そうなるというのだ。
「そしてその後で」
「その後で?」
「目が覚めて。また生きるんだ」
「生きるのですか」
「そう、生きるんだよ」
優しく微笑んでだ。義正は妹に話す。
「あの人はずっと生きるんだよ」
「あの、その生きるというのは」
怪訝な声と顔でだ。義美は兄の言葉に問い返す。
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