精神の奥底
72 The Day 〜前編〜
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の、そして私自身の気持ちを信じたいの」
彩斗はページを開こうとするが躊躇った。
やはり恐怖が拭えなかった。
もしミヤが自分と出会ったが為に辛い目に遭っていたらと思うと、もし出会ったことを後悔していたらと思うと手が止まってしまう。
もしそうなら、きっともう二度と立ち直れない。
それが恐ろしくて仕方がなかった。
もう何もかもがどうでも良くなってしまったと思っていたが、やはり心の何処かで立ち直れなくなることを恐れているのだ。
しかし、それに気づいていた彼女は彩斗を後ろから優しく抱きしめる。
「大丈夫、あなたが読み終えるまで私はずっとここにいる。1人には絶対にしないから……」
「……分かったよ」
震える手で1ページ目を開く。
だが、反射的に目を閉じてしまう。
彼女が側にいるだけで徐々に恐怖は薄らいでいくというのに、身体は思うように動いてくれない。
「ゆっくりでいい。ゆっくりでいいから目を開いて」
彩斗の目に映ったのは、ただの文字の羅列のはずだった。
語彙力に幼さが残りつつも、誠心誠意丁寧な字で綴られた日記の最初のページ。
その時の気持ちを誰に伝えるわけでもなく、ただ素直に書き記したもの。
きっと書いた本人でさえ読み返すことは無いかもしれない代物だ。
「これは……」
それは美しくも儚い世界へと繋がっていた。
幼い日のミヤが見て感じたものが瑞々しいままに詰め込まれている。
徐々に彩斗の精神を投影したこの世界そのものが塗り替えられていく。
そこは既に暗く冷たい海に囲まれた小島ではなかった。
彩斗の目の前には、数年前のあの公園の景色が広がっていた。
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