精神の奥底
72 The Day 〜前編〜
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少し罪悪感を感じる表情ではあるが、辛かった思い出を話す時の顔ではなく、少しほろ苦い思い出を話す時の顔をしている。
彩斗は不思議な好奇心に突き動かされ、ゆっくりと彼女の膝の上から起き上がる。
「人質は犠牲にしても構わないっていう命令だったんでしょ?」
「でも状況を把握しようとした次の瞬間には私はフリーズしていた」
「フリーズ?」
「ええ。高度な軍事用の最適化プログラムで週に1度メンテナンスされていたはずなのに…ね」
「一体…どうして?」
「その少年は自分を誘拐したはずのゲリラの看病をしていた。とても幼くて小さな身体で必死に……それ見た瞬間、私の攻撃プラグラムは全て停止した」
「その少年に情が湧いた?」
「そうかもしれない…でも会ったことも無いはずのその少年の行動がキッカケで私は感情を取り戻した。攻撃プラグラムがフリーズ、銃の引き金を引くのを躊躇えたのも、その子のおかげで私の良心がそうさせてくれたんだと思う」
「その時のことをアイリスは…?」
「覚えてるはず。でも私も同じ出会い方をしていたら、きっと話さなかった」
「君はそのせいで軍を?」
「ええ。感情を持って人を殺せない兵器は軍隊には必要無い。私は生みの親の元へ戻された。でもそこで初めて感謝するっていうことを覚えられた」
「感謝?」
「感情プログラムや人格プログラムをデリートせずに残していてくれた私の生みの親と私に過ちを気づかせてくれたあの少年に」
彼女はその瞬間、初めて笑顔らしい表情を見せた。
「私があなたを助けたかったのは、その少年に何処か似たものを感じたから。きっと成長していたらあなたと同じくらいになっていると思う」
「……」
「そして、あなたの人間でもネットナビでも分け隔てなく扱うその優しさに惹かれたから。きっともう1人の私も同じ」
彼女は彩斗をそっと抱きしめた。
「最初はあなたを選んで、命は救えたけど、心に深い傷を負わせてしまったことを後悔した」
「……」
「でも奪うばかりだった私の力を人を救うために使ってくれた。あなたと出逢えたことは私の誇りよ、彩斗くん」
そして彼女は彩斗に1冊の本を手渡した。
分厚く日焼けしている日記帳。
さっき七海から渡されたものと同じミヤの日記帳だ。
触れた際にシンクロし、内容がそっくりそのまま脳内にコピーされたものだ。
「きっと彼女もあなたと出会ったことを後悔してない」
「でも…僕と会わなければミヤは…」
「賭けてもいい。彼女はあなたと出会ったことを後悔していない。そして前に進んで欲しいと願ってる」
「どうしてそこまで言えるの?」
「正直、私にもよく分からない。でもね、もし私が彼女と同じ立場ならきっと後悔はしないから」
「……」
「形は違えど、あなたを救いたいと思った彼女
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