精神の奥底
72 The Day 〜前編〜
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た……」
「アイリスが…?」
彩斗は背筋が凍った。
彼女もまた自分同様に何人もの人の命を奪ったことがあるという事実に全身の毛が逆立つ。
人間の筋肉や内蔵が千切れていく感触を、あの何処か柔らかく、生暖かく、惨たらしい感触を知っているというのだ。
だが何故か徐々に彼女と距離が近づいていくのを感じる。
そして、それに反比例するように彼女の表情からは先程までの悔しさが不思議と消えていった。
「でも何年前だったかな?シャーロとクリームランドの国交が回復してから数年後、この2つの国の国境辺りの島にシャーロ側のゲリラが逃げ込んだあの時、私は初めて任務に失敗した」
「失敗…?」
「アメロッパとしても当時ようやく解決した両国間の対立に再び火が点くのは避けたかった。クリームランドは国土こそ狭いけど、世界でも初期にネットワーク革命を起こした先進国、シャーロは宇宙技術、そして世界でも有数の軍事力や電波通信技術を持った技術大国。どちらの国も世界に強い影響力を持っている」
「もし何かが起これば、世界大戦の引き金になる……」
「それを事態を回避するためにアメロッパは介入した。それと同時にゲリラの中にアメロッパ軍出身の人間がいることを隠蔽するために……」
「いつだってあの国はそうだ……中立を装って自国の非は絶対に認めない」
かつてシャーロとクリームランドは数十年に渡って対立していた。
その原因は彩斗自身も詳しくは知らないが、学校の教科書によれば大昔の大戦の影響により、政治思想の違いから陣営が分断されたのだという。
両国はそれぞれの思想の代表だった。
そして約十数年前、シャーロ内で改革が起きたことで対立は消滅、両国は友好条約を結んだ。
しかしシャーロにとって改革から数年間は政治体制が大きく変わったことで極めて不安定な時期でもあった。
そのため、過激な思想を持つ集団や改革以前の政治思想を是とする集団による政府転覆を狙ったテロ活動やゲリラ活動が後を絶たなかったのである。
「その島には中央には小さなサナトリウムがあってね、ゲリラはそこで療養していた幼い少年を人質に取って逃亡を図ろうとした」
「……」
「私に与えられた命令はゲリラの殲滅。人質の命は犠牲にしても構わない、祖国の為に不利になるもの全て処分するように。簡単な任務のはずだった」
「それで…ゲリラを逃したの?」
「ええ」
「装備に不備があった?」
「いいえ」
「反撃された?」
「いいえ」
「誰かに邪魔された?」
「いいえ」
「じゃあ…一体何で?」
「私はゲリラを追い詰めた。4人を処理して残りは人質を連れた1人。深傷を負って島の診療所に逃げ込んでいた。でも少年がターゲットの近くにいたのよ」
彼女は鬼気迫る場面を話しながらも表情はどういうわけか先程よりも軽い。
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