精神の奥底
72 The Day 〜前編〜
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添付されていた『Memory』と名付けられた謎のファイルこそ、彼女のゆりかごだった。
そして、あのファイルに触れたことで、彩斗は始めた彼女と出会うことができた。
「そう。監獄に囚われていた私はトラッシュ…本体と無理やり分離することで監獄を抜け出し、あのメールであなたのところへやってきた。私を開放するプログラムと一緒に」
無理やり分離したことで、バグが発生してあのような意味不明な文章になってしまったのだろう。
その後、ファイルが空になってしまったのも、彼女が彩斗の中に移動、同化していたからだ。
だからトラッシュには自我が無く、会話は疎か、ウィザードとしての機能を発揮しない。
そして一緒に添付されていた『BEGINS.EXE』、あれは囚われていたトラッシュの本体を開放するためのプログラムだったのだろう。
ウィザードはオペレーターの許可無しでプログラムを実行することは基本的にできない。
あれは彩斗の命を救う切り札でもあり、囚われた彼女を開放するキーでもあったのだ。
「そうして僕がスターダストに……」
だが反面、自我が無いならば、自分がピンチに陥るとハートレスに助けを求めに行ったりするのは有り得ない。
オペレーターを守るようにプログラムされていたとしても、オペレーターを誰かに助けさせる、それもハートレスに助けを求めるなどという高度なことができるとは思えない。
それは彩斗の中の彼女がトラッシュの本体に働きかけたからだったのだ。
「そう。結果として、あなたはあの夜の悲劇から生き延びた」
「僕が紺碧の闇の下で学び、奴らを葬り、そしてValkyrieと出会ったあの夜……でも僕はあの夜、君の力を全く引き出せなかった……」
「あれでも十分だった。あの夜のあなたのバイタルサインのレベルではスターダストの力は完全には引き出せないことは分かっていたし、長時間の戦闘は不可能ということも分かっていた。でもValkyrieから生き延びるには十分過ぎるほどだった……」
彼女は悔しそうな顔をした。
唇から血が出そうな程、強く噛み締めて拳を握る。
その様子から彩斗は空っぽな頭で彼女にふと浮かんだ質問を口にした。
「……後悔してるの?僕をスターダストに選んだこと」
「……全くしてないと言えば嘘になる。でもあなたが悪いんじゃない。予想と現実の食い違い、そしてあなたのことを分かってあげられなかったことが悔しくて…悔しくて仕方ない」
「悔しい?」
今にも泣きそうな彼女の表情を見ているうちに、自分も再び涙が溢れ始めていることに気づく。
理想と現実は必ずしも一致しない。
むしろ食い違うことの方が多いのかもしれない。
それでも彼女は彩斗同様に希望を抱いていたのだろう。
徐々に彼女に何の根拠も無いシンパシーを覚えていた。
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