精神の奥底
72 The Day 〜前編〜
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頭の中が真っ白になってからしばらく経った。
涙は殆ど乾いたが、時折何の前触れもなく、僅かに溢れる。
視界に入ってくるのは、真っ黒で星1つ無い夜空と全てを飲み込むような冷たい海だけ。
身体には今にも海の底に沈んでいきそうなあの感覚が残っている。
心だけはまだ海の中を彷徨っているのかもしれない。
だが身体はそんな自分を浮かび上がらせようとする優しい筏の上にあった。
頭が彼女の膝の上に乗っているのだ。
「……」
精気の抜けた目で彩斗は彼女の顔にピントを合わせる。
自分を見下ろす彼女の顔はやはり何度見ても、アイリスに瓜二つだ。
彼女が一体何者なのか、本当は心の何処かでは見当がついているのかもしれないが、それすらも自分では分からない。
自分の心を見失い始めているのだった。
そんな時、彼女は口を開いた。
「結局、私はあなたを救えなかった。苦しめただけだった……」
「僕を…救えなかった?」
彼女は今にも泣きそうな表情で話す。
その表情を見ているうちに、彩斗は不思議と心が苦しくなってくる。
だが同時に徐々に意識がはっきりとしてきた。
「私はあなたを見ていた。監獄の中からずっと…ずっと」
「ずっと?」
「ある日、私はあなたに危機が迫っているのを感じ取った。そして『私』自身にも」
「危機?」
「この街の不良たち、ディーラー、紺碧の闇、そしてValkyrie。全てがあなたとぶつかるという最悪のシナリオが」
「……」
『紺碧の闇』というキーワードが頭の中を刺激した。
これまで『紺碧の闇』のことは誰にも話したことはない。
だが彼女は知っている。
その謎が精気の抜け切った心にほんの僅かな好奇心を生み出した。
「でも最悪のシナリオを回避するには遅過ぎた。あなたはValkyrieとぶつかって命を落とす、それは避けようがなかった。だから私は来た。戦うことが避けられないなら、せめてあなたを守るために」
「君は……まさか……」
彼女の存在、そして発言の数々、全てヒントでもあり、答えだった。
心の中に眠っていた欠片たちが目を覚まし、1つに繋がった。
彼女と初めて出逢った日の出来事、初めてスターダストになった日のこと、なぜ自分がスターダストになったのか。
自我の無いウィザードがオペレーターを、まして電波変換の適合者として選ぶなど有り得ない。
全ては偶然ではない。
何者かの明白な意思が存在するのだ。
それが何なのか、薄っすらと直感的に感じ取っていた答えがようやく目の前に現れたのだ。
「君が……トラッシュの人格プログラム」
彼女はゆっくりと頷く。
これが全てに筋が通る解答だ。
トラッシュの人格である彼女は何らかの理由で、本体から分離して彩斗の元へとやってきた。
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