409部分:第三十一話 夏の黄金その十三
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第三十一話 夏の黄金その十三
黄色いプティングだった。それこそがだった。
「これが薔薇のですか」
「はい、薔薇のプティングです」
「黄色い薔薇で作られたものですね
「はい、そうです」
「その薔薇のプティングをこうして食べるのですか」
「実はこの薔薇のプティングはです」
それ自体に対してだ。義正は話してきた。彼の前にもその黄色のプティングがある。どちらも何処か神秘的な色彩をそこに見せていた。
それを前にしてだ。彼は話す。その話すことは。
「皇帝も愛した食べものでして」
「羅馬皇帝がですか」
「ネロです。暴君と言われています」
実際はキリスト教徒を弾圧した、ただしこれは彼だけではなくはじめにそうしたのもカリギュラであり彼は皇帝の権威、帝国をまとめるにあたって必須のそれを認めない不穏分子を弾圧したに過ぎない、弾圧の是非はともかくとして彼がこれといって残虐だった訳でも邪悪だった訳でもない。
残虐と言うのならそれは違っていた。羅馬の市民達が血生臭い宴を好めば市民達の人気を気にするネロはそれに応えていたに過ぎない。つまり彼ではなく羅馬の市民達、ひいてはその時代が残虐だったのだ。
そのネロの名前を出してだ。話す彼だった。
「その彼が食べていたのです」
「その暴君がですか」
「そうです。食後の最後はいつもこれだったとか」
「この薔薇のプティングを最後にですか」
「そうして食べていたものです」
「それだけに歴史の深いものなのですね」
「そうです」
その通りだとだ。義正は答える。
「それがこの薔薇のプティングです。それに」
「それにですか」
「これもです」
今度はワインだった。二人の前に出されたのだ。そのワインはというと。
ロゼだった。そしてそこには白の花びらがあった。
その花びらを見せながらだ。彼は話すのだった。
「これは羅馬にはなかったですが」
「ワインに薔薇を入れることは」
「はい、しかしです」
それでもだというのだった。
「薔薇の水を飲むことはありました」
「水に入れてそのうえで」
「香りと味のついた水を飲んでいたのです」
「それも美味しそうですね」
「貴女はお酒を飲めませんので」
病故にだ。それは仕方のないことだった。
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