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理想のチーム
第八章

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「二点三点でも取ればな」
「そうして勝てますね」
「このシリーズは」
「うちの勝ちや」
 そうなると言った、そして実際にだった。
 町村はシリーズの流れを掴んだうえで勝負を終始有利に進めてだった。四勝一敗の圧勝で西尾に自身の胴上げを見せた。
 その胴上げを苦い顔で見た西尾は後で町村がこのシリーズについて語ったその言葉を聞いた。
「俺はピッチャーだけしか見ていないか」
「確かにそう言っていましたね」
「テレビや雑誌で」
「もうこれ見よがしに」
「そう言っていましたね」
「そうかもな」
 西尾はは口惜しさを滲ませた顔で周りの記者達に応えた。
「俺はピッチャーピッチャーでだ」
「守備、打撃それに走塁はですね」
「そうしたことは」
「考えもしていなかった」
 全く、というのだ。
「それではな」
「町村さんに負けるのもですか」
「当然ですか」
「あの爺さんはチーム、野球全体を見ている」 
 まさにというのだ。
「そうして采配を執って戦っている」
「それではですか」」
「監督も負ける」
「そうだというのですね」
「本当に腹が立つがその通りだ」
 認めるしかないというのだ。
「このことはな、俺は負けたからな」
「ピッチャーだけではですね」
「野球は勝てない」
「そうですか」
「ああ、日本一になるにはな」
 チームを率いる者もっと言えばプロ野球の世界に身を置いている人間としては究極の願いだ。
「それにはな」
「ピッチャーだけじゃなくて」
「野球の全てを見る」
「そうして育成をして采配を執る」
「そうしないと日本一にはなれない」
「そういうことですね」
「そうだ、俺もよくわかった」
 顔と声の苦々しいものはそのままだった。
「一から勉強のしなおしだ」
「そうですか」
「そうされますか」
「野球は本当に難しいものだよ」 
 最後にこう言ってグラウンドを観た、これまではマウンドだけだったが全体を観た。そのうえでこれからのことを考えるのだった。野球のことを。


理想のチーム   完


                2017・6・21
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