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役者冥利
第一章
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               役者冥利
 吉田義夫といえば悪役俳優として有名だ、とかくその顔がかなりインパクトがあり重用されていた。
「その顔だよ」
「その顔がいいんだよ」
 遠近感さえ無視したかの様な強いインパクトを与える顔にファン達は唸っていた。
「怖い顔っていうかな」
「忘れられない顔だよな」
「物凄い顔だよ」
「とにかくな」
「特に死ぬ時だよ」
 悪役なので殺される時の顔だ。
「その時の顔が最高だよな」
「子供が見たら怖がるみたいな」
「実際怖がるしな」
 時代劇を観た子供達がだ。
「あんな顔の役者そうそういないぜ」
「最高の悪役の一人だな」
「如何にも悪そうな顔でな」
「死んだ時まで印象に残るな」
「いい役者だよ」
 悪役としてだ、しかし。
 吉田本人について知っている者はよくこう言っていた。
「いい人だよな」
「謙虚で真面目でな」
「礼儀正しくて」
「あんな気立てのいい人はいないよ」
「悪役の人にはそうした人が多いけれど」
「吉田さんもな」
 その彼もというのだ。
「いい人だな」
「かえって悪役の方がいい人さ」
「しかもあの人は画家でもある」
「教養も常識もあってな」
「凄くいい人だな」
「本当に」
 現場の面々からの吉田の評判は極めてよかった、それは吉田の知人達も同じで彼を悪く言う者はなかった。
 だがそれでもだ、彼の人柄を知らない視聴者特に子供達は。
「あの人怖いよな」
「滅茶苦茶悪いし」
「実際あんなに怖いんだろうな」
「それも悪くて」
「いつも何してるんだろ」
「悪いことばかりしてるんじゃ」
「極悪人?」
 この言葉も出て来た。
「ひょっとして」
「そうじゃないの?」
「映画でもあんなに悪いし」
「だったらね」
「あの人無茶苦茶よ」
「凄く悪い人よ」
「どう見てもね」
 こう話す、そして。
 大人の中にもそうした者がいてだ、彼等は口々に言っていた。
「絶対に悪人だな」
「ああ、吉田義夫はそうだな」
「あれは悪人の目だ」
「どんな悪いことでもする奴の目だ」
「極悪非道だ」
「ヤクザよりも悪い奴だ」
 こう言っていた、それであるタクシーの運転手は。
 吉田本人が自分のタクシーに来たのを見てそれで言った。
「うわ、吉田義夫か!」
「はい、そうです」
 吉田は至って落ち着いた声で返した。
「私が吉田義夫です」
「一体何しに来た!」
「何といいましても」
 吉田は運転手の落ち着いた声のまま答えた。
「タクシーに乗らせてもらいに」
「帰ってくれ!」
 運転手は吉田に必死の顔で叫んだ。
「あんたは乗せられない!」
「それはどうしてでしょうか」
「あんたの映画観たぞ!最近じゃテレビもな!」
 吉田はテレビド
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