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儚き想い、されど永遠の想い
387部分:第三十話 運命の一年その七

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第三十話 運命の一年その七

「それでも夏にはです」
「そうして冷たくした紅茶をですね」
「飲みたいと思います」
「身体を冷やしてはいけませんがそれでも」
 婆やは真理の身体を気遣いながら述べていく。
「暑過ぎてもいけません」
「では」
「はい、いいと思います」
 婆やはここで笑顔になって答えた。
「それもまた」
「暑いとですか」
「何事も真ん中が大事です」
「真ん中?」
「中庸というのでしょうか」
 婆やはだ。儒学にある言葉を出して話した。
「私はそれだけ学はないですが」
「中庸ですか」
「つまりこの場合は暑過ぎず寒過ぎず」
 そうしたものだというのだ。
「それが大事ですから」
「冷たいお茶もですね」
「いいと思います」
 こうだ。婆やはまた真理に話した。
「夏になれば」
「夏に。氷で冷やしたお茶も」
「かき氷もどうでしょうか」
 それも勧めるのだった。夏の定番である。
「かき氷もまた」
「そうですね。かき氷もいいですね」
「昔はとても食べられませんでした」
 少なくとも江戸時代にはだ。夏に氷を楽しめるのは将軍やそうした限られた者達だけだった。そこまで高価なものだったのである。
 しかし今はだ。普通にだというのだ。
「それなら食べるべきです」
「そうですね。夏には」
「ですがそれは夏のお話です」
「今はですか」
「普通に楽しまれて下さい」
 これが婆やのだ。真理に言うことだった。
「春を」
「この春をですか」
「もうすぐ終わりですが」
 皐は晩春の花だ。それが咲くことは即ち春の終わりが近いということだ。
 そのことに続いてだ。婆やは話すのだった。
「ですがその後は」
「梅雨ですね」
「雨が多くなりますが」
「いえ、その雨も」
 どうかとだ。真理は微笑んで述べた。
「いいものですね」
「雨はお好きですか?」
「昔は好きではありませんでした」
 そうだったとだ。真理は婆やに素直に話した。
「ですが今は」
「違いますか」
「はい、違います」
 こう婆やに答えるのである。
「雨もいとおしく感じられる様になってきました」
「雨さえも」
「これまでは。雨は」
「鬱陶しく思われましたね」
「降っているだけで気持ちが萎えました」
 そうさせるものがあった。雨にはだ。
 空を曇らせ泣かせるからだ。だからだというのだ。
「ですが今は」
「雨もいとおしくですか」
「雨は恵みですから」
「恵みですね」
「人は水がなければ生きていけません」
 そしてだ。さらにだというのだ。

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