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記憶にない方が
第二章
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「僕から」
「そうしてくれるんだ」
「とはいってもね」
「知らないんだね」
「僕は僕が誰かね」 
 一切というのだ。
「知らないよ」
「そうなんだね」
「大江山ってところにいたんだよね」
「そう聞いているよ、私も」
「それとね」
 トニックはさらに言った、校舎の屋上で青空を見つつ坂口に話していった。
「どうも僕の名前はお酒に関係あるね」
「お酒にだね」
「そんな気がするんだ、あとね」
 坂口にさらに話した。
「何かイバラギっていう恋人がいたみたいだね」
「イバラギ?」
 坂口はその言葉に目を光らせた、あることを確信してだ。
 そしてトニックも彼のそのことに気付いて尋ねた。
「僕のことわかったんだ」
「うん、ただね」
「ただ?」
「君は殆ど覚えていないんだね」
「うん、覚えてるのは今言ったこと位で」
「他にはだね」
「何か思い出そうとしても思い出せないんだ」
 ぼんやりとした顔で坂口に話した。
「そして覚えることも出来ないから」
「そうだね、どうも君はね」
「その方がいいんだね」
「君にとってね」
 坂口はトニックに真顔で話した。
「いいね、覚えられないことも思い出せないことも」
「そうなんだ」
「君はその方が幸せになれるよ」
 トニックを優しい目で見ながら話したのだった。
「君は幸せだね、今」
「うん、何も困ったことないよ」
「幸せなまま人間としての一生を送りたいね」
「そうだよ、僕ずっと幸せなまま死にたいよ」
「じゃあその方がいい」
 思い出せず覚えられない、その方がというのだ。
「君にとってはね、どうも神様か仏様がそうさせたんだ」
「神様か仏様が?」
「君の今の生ではその方がずっといいと思ってね」
「わからないよ、そんな難しい話は」 
 呆けた中に戸惑いを見せてだ、トニックは坂口に言った。
「今のどうとかって」
「しかしそうなんだ、君はずっとその方がいい」
「思い出せないで覚えられないで」
「君の本当のことを知らないまま生きられるからね」
「全然わからないけれど先生が言うならそうだね」
 トニックは年齢よりも遥かに幼い顔立ちで坂口の言葉に頷いた。
「僕はこのままだね」
「うん、生きていくんだよ」
「そうするね」
 ただ頷くだけだった、そして。
 トニックは坂口に別れを告げてぼんやりとした感じで校舎の中に戻っていった、そして坂口は一人になって。
 彼のことを思った、そのうえで言った。
「追い出され続け忌み嫌われて鬼となって成敗されて仲間共々殺されるなんてことは思い出してはいけないよ、聞いて覚えてもね」
 こう言ってだ、彼はトニックのこれからの人生に幸あらんと思った。このまま思い出さず覚えられないままでいられる様にと。


記憶にな
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