二章 ペンフィールドのホムンクルス
12話 望月麗(4)
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列島内部に敵の前線基地が作られたとなれば事実上の敗戦と同義よ。何としてでも高梨市は奪還しなければならない」
――侵略。
その二文字が頭の中をぐるぐると回る。
特殊戦術中隊の設立後、亡霊の本土上陸は阻止していた為、社会的には未知の生命体による侵略を受けている状態という認識は薄くなっている。
しかし、前線基地が九州に造られたとなると侵略という意味合いが急激に現実味を帯びてくる。
この事態が引き起こす経済的損失がどれほどのものになるか想像もつかない。
日本が頼っているメタンハイドレートの輸出も難しくなるかもしれない。あらゆるシーレーンが危機に晒され輸入出の全てがストップする可能性もある。少なくとも、これでは対馬海峡は放棄せざるを得ない。
海上自衛軍や戦略情報局が維持している中曽根航路帯構想は軍事的にも経済的にも破綻するだろう。
そこまで考えて、思考を放棄する。
自分の仕事は戦うことだ。
亡霊の多方面的な影響など文民が考えればいい。
どうせ、全ては既に手遅れなのだ。
一八四〇、沈黙が破られた。
高梨市一帯のエネルギー体とは独立した一つの巨大なESPエネルギー、すなわち亡霊が現れ、統合幕僚監部による承認を受けて神条奈々は特殊戦術中隊の投入を決定した。
◇◆◇
桜井優は戦闘服に着替え、識別灯の点検を繰り返していた。
識別灯は夜間飛行時に、味方への誤射や衝突を防ぐ為のものだ。特に小隊長クラスは識別灯に色が異なっており、即座に見分ける事が可能になっている。
黙々と訓練通りの点検を進めながら、息をつく。
先程の麗の言葉が脳裏に蘇った。
――私じゃ、ダメですか?
ホテルの前で、彼女はそう言った。
一瞬、唇が触れた。
彼女は本気だった。
しかし少し冷静になれば、やはりおかしいと思う。会って間もない人に対してあれほど積極的になれるものだろうか。
何か、違和感があった。
無理をしているような気がした。
それがとても危うく感じた。
『優くん、準備出来た?』
通信機から奈々の声。
「はい。終わりました」
『オーケイ。女性陣はまだドレスアップと化粧に手こずっているわ。悪いわね。みんな厚化粧なのよ』
奈々のジョークと、数人の笑い声が聞こえた。
『司令、こっちにも聞こえてますよ。第一から第六小隊の全ての準備完了報告を受けました』
華の声。
『あら。ではパーティーの時間ね。ダンスホールを開放しましょう』
男女の出撃ブースを分断していた扉が開き、機械翼を広げた女性中隊員たちと部屋が繋がる。
『出撃ハッチ開放10秒前』
オペレーターの無機質な声。
「ねえ、今回ってやばそうじゃない
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