第3章 儚想のエレジー 2024/10
23話 彷徨う抜殻
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システムが正しい音声を認識することが出来ない。あとは無防備に老爺を見据える怯えた目に刀を突き立てれば頭部へのクリティカル補正によって増加したダメージが確実にHPゲージを全損させることだろう。システムの瑕疵を的確に突いたPKだ。無駄がなく、相手を乗せるお膳立てまで完璧だ。だが、故にその危険性だけは分かりやすかった。
「もう止めておけ」
刀を握る老爺の腕を掴み、制止する。
筋力ステータスは然程高いわけではなかったらしく、軽く腕を引くと二歩ほどつられて後退する。そのタイミングを逃すことなく、組み伏せられていた軍のプレイヤーは有らん限りの声量でリザインを宣言し、デュエルの終了を告げるブザー音が鳴り響いた。HPが全快し、欠損箇所も回復した彼は仲間と連れだって、自身の愛剣を拾うことさえないまま路地を反対側に逃走していった。
その場に残された老爺は盛大に溜息を零すと俺の腕を振り払い、刀を鞘に納めた。鯉口の涼やかな音が響くや否や、しわがれた声が静かに語り出した。
「いけ好かねェガキだな。こんなジジィの邪魔するたァ、ろくな事になんねェぞ」
「無意味な殺し合いを止めただけだ。アンタが俺をどう思おうが構わないし、興味もないけどな」
「無意味な、ねぇ」
蔑みに反論すると、老爺は押し殺したような笑い声を喉から漏らした。
加害者と被害者の立ち位置が混濁したこの場に、見過ごすという選択肢を選ばずに飛び込んでしまったのは明らかに俺の非に帰せられるだろうが、仮にも軍のプレイヤーはキバオウの身内だ。彼と行動を共にする期間内だけでも、死なせる事を黙認することだけは精神的な部分で嫌悪感がある。無論、現状の軍の肩を持つというのも精神衛生上宜しくはない行為なのだが。
……などと考えている間に、老爺の草履が石畳に擦れて音を鳴らした。踵を返し、会話にも飽きて二歩三歩と場を離れる最中、ふと思い立ったように立ち止まっては振り返ることなく去り際に言葉を残す。
「まぁいい。テメェの面ァしっかと覚えた。今回ばかりゃァモノを知らねェってことで見逃してやる。だがよ」
一拍置いて、煙管に火を灯す。
何かやりきれないような、苛立ちを押し殺すような吐息に紫煙が混じって宙に融けるのを他所に、冷たく鋭い視線が振り向きざまに寄越された。
「………また邪魔するってんなら、テメェもツレも、斬り捨ててやる。一切合切な」
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