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ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第3章 儚想のエレジー  2024/10
23話 彷徨う抜殻
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いないかのように振り抜かれ、軍のプレイヤーと老爺は交錯して位置を入れ替える。ソードスキルに頼らない個人の技量による斬撃はあまりにも鮮やかで、傍観者から声を発する権利さえ奪って静寂が辺りに張りつめる。無粋に音をたてたのは、大剣とその柄にしがみ付く両手のみ。防具の継ぎ目、関節の可動部を目掛けて繰り出された一太刀によって手首から先を切り離してみせたのだ。


「……なんでェ、このザマぁよぉ?」


 溜息混じりに、辟易する声はそう宣う。
 心底落胆したような面持ちではあるが、殺意は萎えていない。手負いの相手を見て更に気を研ぎ澄ませているのは、獲物を逃がさないようにという気構えだろう。状態異常とはいえ、部位が欠損すれば戦意は容易く削がれるのは自明の理であり、迫り来る老爺に後退りしながら震える声を絞り出しながら言葉を探す。


「リ、リザぃ――――ごぼッ!? がァ!?」


 そして思い出したように《リザイン(降参)》の単語を発音しようとする刹那、それを遮るように刀の切っ先が鎧に覆われていない喉仏を斬り掃い、言葉を詰まらせた瞬間に滑り込むような歩法を以て急接近し、口を覆うように顔面を掴んで叩き伏せた。ほぼ無抵抗のまま、何が起きたかさえ理解できないような驚愕を顔に貼り付けたまま全身鎧が派手な音を立てて石畳に衝突する。一連の運びはあまりにも鮮やかだった。しかし、巧いという感想以上に、狡いと思わずにいられなかったのだ。
 このSAOにおいて、プレイヤー(個人)の戦闘能力はレベルやスキルといったシステムが用意したルールに大きく依存する。しかし、戦闘能力という言葉で包括した強さの指標の中にはシステムに依存し得ない領域も当然ながら存在する。言うなれば、《剣の扱い》という技量面の問題だ。どれほど剣に慣れ、どれほど自在に刃を操れるかという、システムの補正が幾許も関与出来ない能力。一方的に相手を追い詰める老爺は、そのシステム外の能力値がこれまで見たどのプレイヤーよりも上回っていたのだ。俺達が如何に命懸けで剣を振るい、技術を見出して身に付けてきたとしても、剣士としての研鑽と蓄積は遥か及ばない境地にあると思い知らされる。


「……なァ、今、なんと言おうとした? 逃がさねェだのブッ殺すだのと息巻いてやがったのはどちら様だったかねェ?」


 静かな口調だ。揺らぎは無く、穏やかで、冷ややかで、それだけで肉を裂かんほどに鋭い殺意を滲ませた静かさだった。その存在感は相対する者を居竦ませ、老爺は刀を逆手に持ち替える。
 如何に重装備とはいえ、武器もなく組み伏せられているだけの軍のプレイヤーは抵抗する手段と気力を喪失している。ホロウィンドウによるタップ操作でのリザインは一手目の交錯で、そして発音によるリザイン申告も喉を潰されてすぐに口を覆われているために
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