第3章 儚想のエレジー 2024/10
23話 彷徨う抜殻
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もう会話も最低限にして踏み込ませる余地さえ与えまいかと逡巡する最中、先程と同様の恫喝に似た内容の文言が進行方向から耳に入った。よもやティルネルが軍に絡まれたのかと自然と下方を向いていた視線を正すと、音源はティルネルの居る位置よりの更に先。曲がり角の向こうからするようだった。
「なんや、またウチのモンか?」
「迂闊に出ていくな。もう少し慎重に動け」
「せやかて我慢して見とれちゅうんはゴメンやで。ケジメは絶対に付けさしたる」
今にも牙を剥きそうな形相のキバオウの肩を抑えていると、恫喝の声は唐突に止んで静まり返る。
しかし、次いで聴覚に伝わったのは下卑た笑い声に、通常であれば耳にしないサウンドエフェクト。何かをカウントするような音は、攻略の前線にいるプレイヤーならば耳にしたことのある筈のもの。記憶が正しいとするならば、それはデュエル開始前のカウントを行う際に発せられる電子音であり、つまりそれが意味することは単純明快であった。
「あんのバカども………!」
一にも二にもなく駆け出したキバオウを追う。軍のプレイヤーの前に保護した子供を晒すのは悪手だし、何よりもこれから誰かの生き死にの場面が繰り広げられることを考慮してティルネルに引き続きの保護を頼み、路地を曲がった先に躍り出る。
その光景は、どう見ても弱者を虐げて愉しんでいる示威行為そのものだ。
だが、明らかに何かが違っていたように思えた。違和感を醸すのは軍のプレイヤーではない。彼等から感じるのは嗜虐心のみであり、その結果としてプレイヤーを死に至らしめるという悪戯めいたものだろうか。行動の過激さに目を瞑ればついさっき遭遇した彼等と概して差はない。
だが、対する和装の老爺からは表情と呼べるものが何一つ読み取れないのだ。これから自身に刃を向ける相手さえ眼中に捉えているようではない。目算で言うならば八十歳に届きそうな、およそSAOプレイヤー内最年長かと思われる彼は無表情のまま腕をだらりと下げ、カウントダウンが過ぎるのをあたかも無為に待つようにも見える。
口元を僅かに吊り上がる。その変貌さえなければ、完全に察知することはできなかっただろう。
軍側は冗談のつもりなのだろうが、老爺は一切のふざけがない。彼から漂うのは、獲物を前にした狩人のような殺意――――同類の匂いだった。
「……ダメだ。アンタ、今すぐリザインしろ!」
全身が総毛立ち、声を挙げたと同時にデュエル開始を報せるブザーが周囲に響いた。
大剣を構えた軍のプレイヤーは俺の声を無視して揚々と相手との距離を詰め、対する老爺は僅かにこちらに一瞥を向けるとゆっくりと左右に首を傾けて骨を鳴らす。腰に差した一本の太刀の柄をそっと撫でるや否や刀身が鞘から滑り出た。
刀の刃は何も接触して
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