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ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第3章 儚想のエレジー  2024/10
23話 彷徨う抜殻
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し通そうとしていた殺人について語ったのだ。当時はその全てを余さず吐露したわけではなく秘匿した情報もあるのだが、罪悪感を抱える人間は往々にして、その罪を重荷に例えることが出来るのだと思う。背負いきれなくなった重荷から解放されたいという心情が故に。


「でも、オっさんは過ちを見過ごせなかったんだろう」
「せやけどな……」
「俺が幻滅するとすれば、今の《軍》に危機感を抱かない場合か、或いはこの状況を意図的に引き起こしていた場合だ。………そうであったにせよ、所詮は他人事だ。正義感に駆られて直談判しに乗り込むような真似はしないがな」


 言い淀むキバオウに、それだけ告げては引き続きティルネルの背中を追う。
 僅かに間が開き、隣から濁声が向けられた。


「………人のこと言うわりに、ジブンはホンマ素直じゃないのう」
「何がだ」
「さっきの揉め事のあとにでも、わいのとこに来るつもりやったんやないか?」


 俺はそこまで殊勝な性格ではない。少なくとも真っ当な善性を持ち合わせてなどいない非人間だと認識している。目的の為に手段を選ぶ高潔さもなければ、平気で他人の命さえ奪える程度には残忍な生き物だ。と、脳内で否定するうちに一つだけ気付いてしまった。そもそもキバオウの評価基準は《今の俺》ではないのだ。彼が二十五層フロアボス攻略戦を経て、攻略組からアインクラッド解放軍もろとも撤退を表明するまでの、まだ人を殺していない《過去の俺》しか知り得ない筈だ。
 キバオウと離れてから、俺は手を汚し過ぎたのだ。時には、その罪から逃避したことさえあった。何せこのSAOでHPを全損させたアバターは間もなく消滅するが、実際にそれを操っていたプレイヤーが死亡する光景を目の当たりにしたプレイヤーはいないからだ。そんな詭弁に縋り付こうとすると、決まって掌に握っていない筈の片手剣の質量とアバターを裂く感触が蘇った。AIの単調な反応で行動するモンスターとは違う、妙に刃の通りにくい生々しい感触はゲームであってはならないものだ。
 ならば、人を斬る感覚を知った俺にその評価は正しくない。ましてや、PoHと刃を交えた際の俺は明らかに殺し合いを楽しんでいた。血の気が引くような怖気に反して昂る自分に悍ましささえ感じたが、律することも難しい黒い衝動は確かに己が内面から生じたものに他ならない。それにさえ自覚したのは遅過ぎると言わざるを得ないタイミングだ。畢竟、俺はキバオウが俺に向けた評価は酷い誤謬に満ちている。気付いてしまった乖離に後ろめたさを感じずにはいられなかった。


「………俺は、そんな人間じゃない」


 会話を打ち切り、並んで歩いていたキバオウを引き離して距離を置く。
 キバオウの中にまだ残っている俺の記憶を察すると、それがどうしても耐えられない責め苦となる。
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