381部分:第三十話 運命の一年その一
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第三十話 運命の一年その一
第三十話 運命の一年
桜は散った。だが春はこれからだった。若葉のその中でだ。
義正と真理は右に若葉の木々が並ぶ川辺を歩いていた。真理のその背には。
二人の子供である義幸がいた。その我が子を見てだ。
義正は目を細めさせてだ。こう言うのだった。
「三人ですね」
「そうですね。三人ですね」
「私達は三人です」
こうだ、真理に言うのだった。
「これから。三人で」
「共に過ごすのですね」
「桜は散りました」
それは確かに散った。だがそれでもだった。
桜は散ってもまだ春だった。義正と真理は春の中の若葉達を見て次には春の日差しを受けて銀色に輝いている川を見た。そうしてその中でだ。
真理がだ。言うのだった。
「桜だけが春ではなくですね」
「はい、これもまた春ですね」
「春は一瞬ではありませんね」
真理は桜の後の春の中で言う。
「こうして。続くものですね」
「若し春が桜だけだとしたら」
それはどうしたものか。義正もそのことに気付いた。
そうしてだ。彼も真理に話した。
「非常に寂しいものですね」
「梅ではじまり。桜が咲き誇り」
「そして若葉があります」
今二人の横に並ぶだ。その若葉達を見ながらの言葉だ。
「この若葉達が」
「それをこの子と見て」
真理は少し後ろを見た。そして微笑んでだ。
笑顔になりだ。こうも言ったのである。
「私は幸せです」
「ようやく見えてきている頃でしょうか」
義正は話していく。
「目が開いて」
「どうでしょうか」
「いえ、目で見えていなくても」
義正はここでまた気付いた。あることに。
「心で見ていますね」
「心で、ですか」
「この子は今私達と一緒にいます」
真理の背にいてだ。そうしてだというのだ。
「ですから」
「感じているのですね」
「はい、感じています」
そうだというのだ。真理の背にいる義幸を見ての話だ。
「それは間違いありません」
「では。このままでいいですか」
「この子はまだ生まれたばかりです」
完全な白紙だ。生まれたばかりの人間とはそうしたものだ。
しかしそれでもだ。どうかというのだ。
「ですが感じることはできます」
「赤ちゃんでも」
「赤ちゃんでも人です」
人ならばだった。例え今は完全な白紙でも。
「ですから感じ取ります」
「私達とこうして一緒にいることを」
「特に貴女を」
「私をですか」
「はい、貴女をです」
真理を見て。彼は告げたのだった。
「母親である貴女と共にいたことを」
「私はもうすぐこの世を去ります」
そのことはどうしようもなかった。この間にも病は進行していく。
「それでもなのですね」
「
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