第二章
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「すき焼きです」
「えっ、すき焼き?」
「はい、すき焼きです」
こう言うのだった。
「ご馳走なら」
「ちょっと、すき焼きは」
母は息子の提案に困った顔になって返した。
「今は」
「お金がないですか」
「お金はあるわ」
家は居合道場に塾を経営している、門弟も生徒も多く経済的には全く困っていない。
「けれどね」
「それではいいと思いますが」
「いえ、今夏よ」
母は季節のことを話した。
「夏にすき焼き?」
「暑い時に暑いものを食べると身体にいいですが」
「汗をかいてよね」
「後でお風呂に入ればいいですし」
それで流した汗を清めるというのだ、藤男は和風の男なので基本風呂派だ。あと夏は行水も好きである。
「ですから」
「すき焼きなの」
「それがいいと思いますが」
「暑いのに」
「ですから後でお風呂に入れば」
「いいのね」
「そしてお酒もです」
藤男はこちらも話に出した。
「用意しましょう」
「まあお酒はね」
「問題ないですね」
「ええ、けれどご馳走は」
「やはりすき焼きです」
「そっちなのね」
「僕はそれを推します」
藤男は母にあくまでという口調で話した、家族の他の面々は特に反対することもなくすき焼きとなった。だが。
そのすき焼きについてだ、藤男の弟に四人の妹達はすき焼きのぐつぐつ煮えている様子を見つつどうかという顔で言った。
「ちょっとね」
「夏にすき焼きはね」
「普通はね」
「ないわよね」
「お兄ちゃんならではね」
「何を言ってるんだ、お祝いといえばな」
まさにとだ、藤男はそのすき焼きを笑みを浮かべて見つつ彼等に話した。
「すき焼きじゃないか」
「そうだよね、お兄ちゃんは」
「すき焼き大好きだから」
「もう何といってもよね」
「すき焼きよね」
「いいことがあったら」
「嫌なら食べなくてもいい」
藤男はそれならと話した。
「それならな」
「いや、食べるよ」
「私もすき焼き好きだし」
「私もね」
「だから食べるわ」
「暑いけれどね」
「なら皆で食べよう」
藤男は弟や妹達がいいと言ったのでそれならと返してだった、彼が率先して食べはじめた。肉に葱に糸蒟蒻に豆腐、しらたきや菊菜も全て楽しみ。
酒も飲む、父も酒を飲むがそうしつつ我が子に言った。
「暑いがそれがだな」
「かえっていいです」
藤男は父のおちょこに酒を入れつつ答えた。
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