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儚き想い、されど永遠の想い
378部分:第二十九話 限られた時その九
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第二十九話 限られた時その九

「そうしていますので」
「では普段は」
「贅沢とは縁がありません」
 そうだというのだ。余裕とはだ。
「ですから今この時はです」
「有り難いですか」
「真理さんと出会えて」
 それもありだった。彼は。
「贅沢を知りました」
「余裕をですか」
「こうして余裕の中でお茶を飲み」
 そしてだった。
「梅を見る様なこともです」
「御存知なかったのですか」
「はい、なかったです」
 そうだったというのだ。
「ですが。二人になって」
「そのうえで知られたことですか」
「そうです。では飲みましょう」
 義正は微笑みになりその支那の茶を飲んだ。そしてだ。 
 真理もだ。茶を飲みだった。梅を見る。
 梅を見てだ。彼女は言うのである。
「梅はいいですね」
「そうですね。紅のものも白いものも」
 二人で梅を見ての言葉だった。
「冬が終わりです」
「急に華やかになりますね」
「そうです。華やかになりました」
 義正は梅達と真理を交互に見ながら話した。
「何かが違います」
「冬の終わりを知らせる花です」
 義正は言った。
「それが梅なのです」
「冬が終わりそうしてですね」
「春のはじまりもです」
 それも伝える花だというのである。
「だからこそいいのです」
「ではですね」
「夜になるまで観ましょう」
 真理に静かに話す。
「夜の中に。梅達が消えるまで」
「わかりました」
「ただ」
 そうすると話したうえでだった。義正は真理にだ。
 そっとだ。近寄り肩にコートをかけた。彼がこれまで着ていたフロックコートをだ。
 そうしてからだ。彼は言うのだった。
「冷えますので」
「だからこのコートを」
「羽織って下さい」
 真理に対して微笑んでの言葉だった。
「そうして夜まで」
「過ごすべきですね」
「はい、そうしましょう」
 こう告げたのである。
「暖かくして」
「まだ寒いからですね」
「完全に春にはなりません」
 春はだ。急には来ないというのだ。
「冬は少しずつ退場していくものですから」
「そうですね。ですから暖かさには気をつけて」
 真理も応えてだ。あらためてコートを羽織ってだった。
 そうして暖かくなりだ。梅を見ていく。梅達はまだ数少ない。だがそれでも。
 冬の終わり、春の訪れの二つを二人に知らせていた。最初の春を。
 暫く梅を見て遂にだった。あの花が咲いた。その花達を見てだ。
 義正は満足した顔で。真理に話した。
「最初ですね」
「そうですね。最初の春ですね」
「桜です」
 満開の桜達を見ながらだ。義正は真理に話していた。二人の前には咲き誇る無数の桜達があった。それはまさに千本桜だった。
 その千本桜を見ながらだ。
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