春の訪れは揚げ油の香りと共に?・その1
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「何?唐揚げの注文じゃねぇのか」
珍しい事もあるもんだ、とその日俺は首を傾げた。何せ俺に妙な注文を告げたそいつは、普段はそんな事を言い出す奴では無かったからだ。
「う、うむ。その……唐揚げを食べたいのではなくてだな。そのぅ……美味い唐揚げの作り方を、教わり……たいのだ」
顔を真っ赤にして俯いたまま、両手の人差し指の指先をぶつけ合っているのは那智。勤務中は凛々しく頼り甲斐のある彼女だが、私生活は非常に残念である。
戦艦共に負けず劣らずの飲兵衛で、休みの日に部屋に籠れば寝間着代わりの芋ジャーかスウェットで一日を過ごす事もザラだというとことん私生活が残念な娘である。
「那智さん……」
そんなただならぬ様子の那智を見て狼狽えている早霜。そんな焦るような事じゃあねぇと思うがな?俺は。何せこの雰囲気、見た事がある。
「那智」
「なっ、なんだ?」
「お前、男できたろ?」
「なっ、にゃっ、にゃっ、にゃにゅにょ!?」
アワアワし過ぎだろ、呂律回ってねぇし。それにこの慌てっぷり、姉妹達ににそっくりじゃねぇか。
「な、那智さん恋人が出来たんですかっ!?」
おぉう、お前も食い付くなぁ早霜。
「まぁ、何となくな。大体、今まで料理をしなかった女が『料理を覚えたい』なんて言い出すのは男の為って相場が決まってるからな?」
パターンだよ、パターン。と言ってやると、那智はますます俯いて、モジモジ具合が3割増くらいになった。
「じ、実はそうなのだ……。最近、街の方で警官をしている青年に告白されてな?」
「ほぅほぅ」
尋ねてもいないのに彼との馴れ初めを語り始める那智。これアレだ、人にバレるのは恥ずかしいけど自分からは幸せオーラばら蒔きたい面倒くさい奴だ。
「半年くらい前になるか。街の酒場で独りで飲んでいてな……少々飲み過ぎて、カウンターで酔い潰れていたんだ」
うわぁ、その姿がスゲェ想像できるわ。ありありと目の前に浮かぶわ。
「それで、店のマスターがお巡りさんを呼んだらしくて……私と彼はそこで出会ったんだ」
「え、酔っ払いを保護しに来た警察官の方なんですか?」
早霜が半ば呆けたような様子で那智に尋ねると、那智は小さく頷いた。
「……いや、保護された那智と保護したお巡りさんがくっつく意味が解らんのだが」
「じ、実はそのぅ……保護されて妙高姉さんの家まで送って貰う道中に、彼に対して管を巻いていたらしくてな?『どうせ私はモテないんだ〜』と、半べそをかいたらしい」
「……うわぁ」
那智の奴、相当悩んでたんだなぁ。妙高と足柄は結婚してるし、羽黒は自慢する訳じゃないが俺に惚れてるらしいしな。自分だけおいてけぼりを
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