暁 〜小説投稿サイト〜
Raison d'etre
二章 ペンフィールドのホムンクルス
2話 白崎凛
[3/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
た。
「逃亡資金として財布ごと彼女に渡したんだろ? 随分と気前がいいな」
 優は返答に窮して、黙りこんだ。
「……広瀬理沙は高校でいじめに遭っていたそうだ」
 準はじっとコーヒーの缶を見つめて、何でもない風を装いながら話を始めた。優は静かに耳を傾けた。
「いじめの原因はESP能力。ESP能力が発現するまでは普通の学生生活を送っていたらしい」
 言葉を選ぶように、小さく間をおきながら準の続ける。
「それがエスカレートして事件に繋がった。現場には刃物が落ちていた。恐らく、広瀬理沙に向けられたものだ。現場を見た限りでは正当防衛の線が濃い」
「……未成年による正当防衛。じゃあ広瀬さんは罪に問われないってことですか?」
「……いや、正直なところそれは難しいと思う」
「ESP能力で人を殺したからですか?」
 優が無表情に言う。意識的に感情が出ないように抑え込んだ声だった。
「そうだな。それと一つ言っておかないといけないことがある。いじめの主犯格だった少女の父親が事件の三日前に亡くなった。上陸した亡霊にやられたらしい」
 優が目を伏せる。
「そんなの、ただの八つ当たりじゃないですか」
 準は頷いた。
「俺たちは亡霊に干渉出来ない。一方的に破壊されるだけだ。その怒りは、肉体とESP能力、二つを兼ね揃えたESP能力者に向かう事がある。実際、八年前はそうだった」
「時代錯誤だと思いますが、ハーフって良く出来た言葉だと思います。人間と亡霊の中間。つまり第三勢力であって、人間の味方ではない、と――」
「桜井。そういう発言は外でしない方が良い。わかるだろ?」
 自嘲めいた発言に、準が冷たく言う。
「……ごめんなさい」
 特殊戦術中隊の立場を、改めて思い知った気がした。
「……怪物と闘う者は、怪物にならないよう気をつけなければならない、っていう名言がある」
「いきなり何ですか、それ」
 突然の準の言葉に、優は小首を傾げた。
「広瀬理沙をいじめてた少女は、怪物と闘っているつもりだったんだろう。初めはただの八つ当たりだったかもしれないが、父親が死んでからのそれは、恐らく広瀬理沙を怪物だと本気で思い込んでいた。でも、客観的には彼女の方が怪物だ。人は、強大な敵と対峙すると、どこまでも残忍になれる可能性を持っている」
 釘を刺すような言葉だった。
「よく覚えておきます」
 準が心配そうに優を見る。
 そして、優は自覚する。広瀬理沙の影響を少なからず受けているのは明白だった。
「じゃ、俺は仕事に戻るよ」
 缶をゴミ箱に投げ、準が踵を返す。
 優は小さく返事して、自販機のボタンを押した。大袈裟な音を立てて、缶コーヒーが落ちる。
 優は緩慢な動作でそれを取り出した。

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ