二章 ペンフィールドのホムンクルス
2話 白崎凛
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た。
「逃亡資金として財布ごと彼女に渡したんだろ? 随分と気前がいいな」
優は返答に窮して、黙りこんだ。
「……広瀬理沙は高校でいじめに遭っていたそうだ」
準はじっとコーヒーの缶を見つめて、何でもない風を装いながら話を始めた。優は静かに耳を傾けた。
「いじめの原因はESP能力。ESP能力が発現するまでは普通の学生生活を送っていたらしい」
言葉を選ぶように、小さく間をおきながら準の続ける。
「それがエスカレートして事件に繋がった。現場には刃物が落ちていた。恐らく、広瀬理沙に向けられたものだ。現場を見た限りでは正当防衛の線が濃い」
「……未成年による正当防衛。じゃあ広瀬さんは罪に問われないってことですか?」
「……いや、正直なところそれは難しいと思う」
「ESP能力で人を殺したからですか?」
優が無表情に言う。意識的に感情が出ないように抑え込んだ声だった。
「そうだな。それと一つ言っておかないといけないことがある。いじめの主犯格だった少女の父親が事件の三日前に亡くなった。上陸した亡霊にやられたらしい」
優が目を伏せる。
「そんなの、ただの八つ当たりじゃないですか」
準は頷いた。
「俺たちは亡霊に干渉出来ない。一方的に破壊されるだけだ。その怒りは、肉体とESP能力、二つを兼ね揃えたESP能力者に向かう事がある。実際、八年前はそうだった」
「時代錯誤だと思いますが、ハーフって良く出来た言葉だと思います。人間と亡霊の中間。つまり第三勢力であって、人間の味方ではない、と――」
「桜井。そういう発言は外でしない方が良い。わかるだろ?」
自嘲めいた発言に、準が冷たく言う。
「……ごめんなさい」
特殊戦術中隊の立場を、改めて思い知った気がした。
「……怪物と闘う者は、怪物にならないよう気をつけなければならない、っていう名言がある」
「いきなり何ですか、それ」
突然の準の言葉に、優は小首を傾げた。
「広瀬理沙をいじめてた少女は、怪物と闘っているつもりだったんだろう。初めはただの八つ当たりだったかもしれないが、父親が死んでからのそれは、恐らく広瀬理沙を怪物だと本気で思い込んでいた。でも、客観的には彼女の方が怪物だ。人は、強大な敵と対峙すると、どこまでも残忍になれる可能性を持っている」
釘を刺すような言葉だった。
「よく覚えておきます」
準が心配そうに優を見る。
そして、優は自覚する。広瀬理沙の影響を少なからず受けているのは明白だった。
「じゃ、俺は仕事に戻るよ」
缶をゴミ箱に投げ、準が踵を返す。
優は小さく返事して、自販機のボタンを押した。大袈裟な音を立てて、缶コーヒーが落ちる。
優は緩慢な動作でそれを取り出した。
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