一章 救世主
12話 広瀬理沙(2)
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
優が理沙に連れられて辿り着いたのは、都心の片隅に取り残された廃ビルだった。
近く取り壊される予定のそれは、埃臭くてお世辞にも居心地が良いとは言えないが、確かに身を隠すにはもってこいの場所だった。
「今日はここで寝る。じっとしてな」
理沙が慣れない手付きで優を縛り、動けないようにする。
少しきつい、という優の訴えを無視し、理沙は壁に背を預けて座り込んだ。
話せる雰囲気でもなく、二人の間に沈黙が落ちる。
優は何気なく辺りを見渡した。古い建物だ。壁には小さな亀裂が無数に走り、幾何学的な模様を描いている。そして暗い。窓は大きいが、既に空に光はない。明かりをつけることも出来ない為、窓から差し込む僅かなネオンの光が唯一の明かりだった。
逃げようと思えばいつでも逃げられる。それが優の下した判断だった。しかし、そうしなかったのは、目の前の少女が気になったからだ。意味もなく人を殺すようには見えない。
優は理沙を見た。綺麗な黒い長髪で、大人と子どもの間のような、まだ幼さの残る顔には疲労の色が強く浮かんでいる。
優は眉を寄せた。理沙の唇のはしに黒いものがついている。すぐに血だと気付いた。それにスカートが切り裂かれて太腿が露わになっていた。
「……口もとに血がついてます。それが原因ですか?」
理沙が無言で口を拭う。良く見ると少し腫れているようだった。
「そう。これはいつものこと。けど今日はいつもより大人数で、数人は刃物を持ってた。このままだといつか殺される、と思った」
理沙が呟く。その声からは先程までの覇気が全く感じられず、優は息を呑んだ。
「正当防衛なら、自首すべきです」
咄嗟に、言葉が出る。理沙は唇に薄い笑みを浮かべた。
「ESP能力で人を殺めた者が公正な裁判を受けられると本気で思う? ESP能力者を、一体どうやって勾留するわけ?」
優は何も答えられなかった。そんな事は、今まで考えた事がなかった。
「あんたさ、自分がどういう立場か知ってる? 小さな救世主だってさ。そういう報道がされてるんだよ。それなのにさ、亡霊っていう怪物に向けられるべき強力な力が一般人に向けられました。これからもそういう事件が起こるかもしれません、なんて報道できないでしょ」
理沙は小馬鹿にしたように笑った。しかし、その笑みはどこか泣くのを我慢している子どものようにも見えた。
「今までさ、そういう報道って一つもなかったでしょ? 本当になかったと思う? ESP能力が一般人に向けられた事が、八年間一度もなかったなんて、ありえる? 私達は、司法の外にいるんだ。司法は、人を守る為にある。私達は人じゃない。人じゃ、いられない」
理沙は突然口を閉ざした。そして、顔を伏せる。
「人間が私を人間扱いしないのな
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ