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Raison d'etre
一章 救世主
11話 広瀬理沙
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ギーとは酷く曖昧な、不安を煽る類のものだった。そして空想は一人歩きを始めた。
 しかし、それは亡霊対策室が設立されてから急速に鎮火したはずだった。少なくとも、優が大きくなってからは、そうした馬鹿げた風説は聞いた事がない。何故、女が今はもう使われていないハーフという呼称を使ったのか、優には理解できなかった。
「ついてこい」
 女が歩き出す。
 どうすべきか考えながら歩を進める。そして街灯の近くに来た時、優は気付いた。
 明かりに照らされた女の服に赤い染みが付着している。
 思わず息を止めた優に気付いて、女は答えた。
「既に三人殺した。変な動きを見せたら、あんたも容赦なく殺す」
 優は黙って女を眺めた。女の瞳の奥で、何かが揺らめく。女はその揺らめきを隠すように優から視線を外し、強い口調で再度、ついてこい、と言った。優はそれに従わず、立ち止まったまま口を開いた。
「名前、教えてもらえますか?」
 女が立ちどまる。怪訝な顔で優を見て、少し迷う素振りを見せた。
「広瀬理沙(ひろせ りさ)」
「桜井優です」
「知っている」
 理沙は特に何の反応も見せず、再び歩き出した。
 チラリと周囲を見渡す。人影はない。逃げようと思えば逃げられるかもしれない。しかし、優は逃げずにそのまま黙って理沙の後を追った。漠然と、そうするべきだと思った。
 右手に握られた漫画と参考書の入った袋が、時を刻むように静かに揺れ始めた。

◇◆◇

 神条奈々は焦りを覚えていた。今までに何度も繰り返したように、無意識に時計を見る。
 時刻は二一〇〇。桜井優の外出を許可したのは二〇〇〇まで。既に一時間を超えている。
 もう限界だった。陸自の上田中将を通してSIAから届いた一つの情報が頭をよぎる。
 ――ESP能力者による殺人。
 いつかは起こるだろう、と予測はしていた。
 故に全ESP能力の指紋、血液、ESPエネルギーによって生まれる独自の波形はSIAによって厳重に記録され、悪用された場合、容疑者の特定が速やかに行えるように対策されている。
 特定と追跡は容易だ。ただ、ESP能力による被害が拡大してそれが表に出れば、混乱と増長を引き起こしかねない。ESP能力者が一般人に対する優位性をはっきりと自覚するのは避けたかった。
 ――彼女達は本質的に人間社会に依存する必要がないのだ。
 彼女たちには、人を支配する力がある。
 そのESP能力を用いれば拘束する事は困難だし、射殺するにしても相応の犠牲を払う必要がある。
 彼女たちが何らかの社会契約を破ったとして、誰もそれを抑えることはできない。
 故に、それに気づかせてはいけない。倫理や道徳で縛りつけなければならない。
 幸い、ESP能力者は生まれ
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