一章 救世主
3話 長井加奈
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。亡霊がこんな短時間で再び姿を見せた前例など存在しない。しかも、百を超える大群だ。
まるで、と奈々は思った。まるで次の襲撃を待ちきれなかったようだ。そう考えて、すぐにそれを打ち消す。亡霊を擬人化し、人の行動特性に当てはめる事は危険だ。古来より人は理解できない事象に神や妖怪を結びつけ、表向きの納得と安心を得てきた。しかし、それは何も解決しないどころか、正しい知識や理解を得る為の障害にもなりうる。奈々は、そうした馬鹿げた理由付けをしたくなかった。「無知の知」と言う言葉が頭をよぎる。
亡霊の活動には謎な部分が多い。その一つに戦力一定の法則と呼ばれるものがある。数が多い場合は個々の戦闘能力が低く、数が少なければそれを補うように個の力が強大となる。そういった経験的な法則を軍はいくつも分析してきたが、その理由や原因はいまだに判明しない。価値基準自体が人間と大きく異なるのだろう。戦略目的が不明な以上、亡霊の行動特性が絞り込めない。
そうした中、唯一理解しうる可能性があるのは戦術・戦闘の分野だ。刹那的な亡霊の戦術は人間のそれと同様に見える。戦闘といった一点に絞れば、動物などを観察してもある程度の理解ができるのと同じだ。奈々の仕事はそうした理解できる部分から対応策を練り、迎撃することにある。亡霊の思想や考え方などは哲学者が考えればいい。
奈々は余計な思考を振り払って、出撃メンバーの選択に取り組んだ。特殊戦術中隊は六つの小隊からなる。しかし、第五、第六小隊は休暇中で前線に送り込める状態ではない。第一、第二小隊も昼過ぎの戦闘による消耗が激しく、負傷者も多い為出撃は見送るべきだろう。ならば、スケジューリングを前倒しにし、第三、第四小隊を同時に選択するのが自然だ。
しかし、と奈々は思った。手元にあった書類をチラりと見やる。唯一の男にして、先程の戦闘で驚くべき能力を見せ付けた桜井優。その腕を再び確認したい、と強く感じた。
救世主。かつて、ESP能力者がはじめて実戦に投入された際、そう叫ばれた。残された最後の希望。しかし、現実は違った。ESP能力者である少女たちは非力で、臆病で、不安定な存在だった。多くの死者を出し、多額の資本を投入し、経験を重ね、そうやってやっと戦える、実用に耐えうる段階まで昇華した。そうした時代の流れを間近で見続けてきた奈々は救世主などいないことを知っていた。
しかし、だからこそ、奈々は特異点を意識せざるをえないのだ。幾度も期待と失望を積み重ねてもなお、ずっと救世主を心の奥で望み続けている。
「第三、第四小隊……また、第一小隊第一分隊のみを投入する。なお、桜井優を当案件より第三分隊から第一分隊に異動せよ」
電子オペレーターは少し驚いた顔をした後、急いで各個人端末へ通達を送った。その様子を背後で見ていた副官の加奈が咎め
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