一章 救世主
1話 神条奈々
[7/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ち良い。
充分に飛び回ってから、高度を下げ始める。足が大地に触れると、優は大きく息を吐き、エンジニアスタッフに視線を向けた。
「これ、どれくらいの速度まで出せるんですか?」
◇◆◇
「彼、飛行は初めて?」
神条奈々は、エンジニアの指示に従ってカリキュラムを消化する桜井優の姿を遠方から眺めた後、思わず隣の長井加奈に視線を向けた。
「ええ。機械翼の概要や基本的な姿勢制御については既に前期初級訓練過程で学んでいますが、実際に機械翼を利用するのは初めてです」
加奈の答えを聞いてから、奈々はもう一度視線を遠方の優に向けた。優はずっと低空飛行を続け、原っぱを何周も回っている。
「射撃に関しては成長を見送るしかないけれど、飛行に関しては既に及第点に達している。一度、実戦を体験させた方が良いかもしれない」
奈々の言葉に、加奈が僅かに驚いた顔をする。
「少し、急ぎすぎていませんか?」
「もちろん、投入はしない。部隊の後ろから実戦を見せるだけ。本物の戦闘を間近で見れば訓練に対するやる気も変わってくるでしょう」
そう言って、奈々は早くも頭の中で新たなスケジューリングを組み立て始めた。
◇◆◇
それの予兆が記録上に初めて現れたのは二〇一〇年六月十二日の正午過ぎだった。日本海に浮かぶ人口八二〇人の小さな白流島を中心とした半径一〇キロメートルに謎の霧が発生し、突如島と本土の連絡が途絶えた。白流島を取り巻いたこの濃霧はグロテスクな紫色をしていたという。翌日、海上保安庁は住民の無事と不可解な霧の原因を調べる為に三隻の調査船団を送り出した。しかし、調査船団は濃霧に入った途端連絡が途絶え、そのまま行方不明となる。
同年六月二十日、白流島から調査船団の代わりに数百の影が飛び出した。濃霧と同じ紫色の光を纏い、巨大な二対の翼を持った異形のそれは統率のとれた動きで本土を目指し高速で飛翔した。
その姿から後に亡霊と呼称される怪物は、数時間後に日本海沿岸に点在するいくつかの集落を消し去った。それが未知の生命体、亡霊との長い戦いの幕開けとなる。
◇◆◇
「ここでの暮らしはどう?」
第一小隊に配属されてから三日目。司令室に呼び出された優は、目の前で柔らかい笑みを浮かべる奈々を見上げて、曖昧な笑みを浮かべた。
「広すぎて、未だによく迷います」
そう言いながら、司令室をチラリと見渡す。規則的にディスプレイが並び、電子オペレーターが暇そうにいていた。壁にはランプやスイッチが並び、機械的な雰囲気になっている。
奈々はクスりと笑って、それから話を進めた。
「第一小隊の子たちとは仲良くなれそう?」
「まだわかりません。数人と少し言葉を交わしただけで、顔も名前も覚えてないです」
「やはり
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ