一章 救世主
1話 神条奈々
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いいのかもしれないが、はじめての正式な訓練である為、緊張してそれどころではなかった。
「桜井くん、これを」
後ろから、落ちついた男性の声。振り返ると、作業服を着たエンジニア・スタッフが機械翼を両手で抱え、前に差し出していた。優は黙ってそれを受け取った。
機械翼を用いた飛行訓練。それが今日のカリキュラムだった。空を飛ぶという事に子どものような期待を覚える一方で、墜落したらどうなるのだろう、と現実的な不安が圧し掛かってくる。
「ねえ、一人で付けられる? 手伝おっか?」
横から女の声。顔を上げると、ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべる一人の少女がいた。
「前期過程で取り扱い方だけは習ったから大丈夫。ありがとう」
優は笑みを返してそう言った。少女は、そっかそっか、と呟いてから逃げるように少し離れた地点に固まるグループの元に戻っていく。その後ろ姿を見送りながら、少女の言葉に甘えた方が仲良くなるきっかけになったかもしれない、と今更ながらに思って軽く後悔した。
周囲には、エンジニアスタッフを除けば女性しかいない。機械翼を取りつけて訓練に臨んでいる男性は、優一人だった。どうも馴染める気がしない。
優は思考を切り変えて、機械翼の装着を再開した。何個ものベルトで機械翼を身体に固定し、金具をはめていく。作業を続けていくうちに、頭の中が急速に冷えていくのがわかった。飛ぶ事への不安が薄れ、気分が落ちついていく。背中にかかる重みが心地よくさえ感じられた。
「チェックします」
近くで待機していたエンジニアスタッフがそう言って、機械翼が正常に装着できているかを確認し始める。優は両手をあげて、エンジニアスタッフが作業しやすいようにした。
「問題ありません。ゆっくりと、ESPを送ってください」
エンジニアスタッフが三歩下がる。優は目を瞑り、ゆっくりと意識を集中させた。背後から僅かな駆動音。
「試しに一メートルほど上がってみましょう。飛行方法は覚えていますか?」
「はい、大丈夫です」
優は頷いて、機械翼を展開させた。強い風が吹き、足がゆっくりと地上から離れていく。浮遊感。足場がない為、どこに重心をおけば分からない。飛行姿勢が崩れ、高度が不安定になる。
「姿勢の制御に移ってください。重心を前に倒さないと機械翼の重さで後ろに倒れます」
エンジニアスタッフに言われた通りに前傾姿勢をとると、幾分か高度が安定し始めた。すぐにコツを掴み、高度を僅かにあげてみる。地上のエンジニアスタッフが僅かに不安そうな表情を浮かべるのが見えた。
「あまり高度を上げないでください。はじめは三メートル辺りが限界です」
優は頷いて、高度を維持したまま旋回を繰り返した。考えなくても、次にどう動けばいいのか不思議と理解できた。風が気持
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