一章 救世主
1話 神条奈々
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うとした。その価値観が、神条奈々という人格を作り上げていった
故に、はじめてそれが観測された時、奈々はそれをそのまま認めた。友人のように不必要に笑い飛ばしたり、大袈裟に騒いだりしなかった。それらは正しい認識の障害にしかならなかったし、有効的な方法ではなかった。奈々は、それを常識的な価値基準によって解釈しようとはせず、そういうものだとありのまま認識することにした。
亡霊。人ではない、異形の侵略者。
当時、奈々は防衛大学校の二年生だった。故にそれが現れた時、彼女は自衛隊の今後の在り方が変わる事を早くに予期した。それは彼女の友人達も同様だったようで、防衛大学校から多くの退学者が出た。奈々は親の反対を押しきってそのまま残留した。
あらゆる経済活動が新たな対応策に追われた。警察・消防・保険・宗教・医療・軍事、数えきれない変化が日本を覆った。奈々は激動の時代で青春を送った。
そうやって、人々は徐々にそれに馴染んでいった。誰もがそれを現実と認めざるをえなかった。そうした間に奈々は防衛大を首席で卒業した後、亡霊対策室の司令官として迎え入れられた。
「彼は普通の男の子よ」
司令官としての立場に就いて六年経った今、奈々は組織を運用する立場にいる。奈々は廊下を歩きながら、隣を歩く副司令官の長井加奈に向けてそう言った。
「彼の持つESPは平均を僅かに上回っているだけ。加えて、射撃も人並み。メディアが騒ぐほど、特異な点は見当たらない」
「皆、きっかけを待ってるんですよ。彼をきっかけだと思いたいんです」
加奈がそう言う。奈々は憂鬱そうに首を振った。
「性別が変わっただけで、何かが変わる訳じゃない。過度な期待は彼の負担にしかならない」
「そうですね。でも、希望を捨てる必要もありません」
「……希望、か」
奈々は呟いてから、加奈の言う希望とは何に対する希望だろう、と考えた。
闘争が終わる希望?
まさか、と思う。八年間にも渡る闘争は、未だ終わる兆しを見せない。
八年間。それだけ闘争が続けば、経済的な疲弊は隠しきれない。貿易に依存した産業は深刻な影響を受け、莫大な失業者を生み出している。輸出国家である日本国の体力は、闘争を続ける上で低下し続けている。闘争が続けば続くほど、不利な状況に追い込まれていくのだ。
奈々はそれから無言で、薄暗い廊下を進んだ。
◇◆◇
桜井優は、ポツンと野原に立っていた。ふと、晴れ渡る空を見上げる。どこまでも透き通る蒼。優は視線を落とし、後ろを振り返った。少し離れた所に、同じ第一小隊の少女たちが集まっている。そして、彼女たちの背中には巨大な翼が生えていた。機械翼。亡霊との空戦を実現する為の戦術兵器。
早く小隊に慣れる為にも集団の少女たちへ積極的に話しかけた方が
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