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Raison d'etre
一章 救世主
1話 神条奈々
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渡した。ずっしりとした重さが両腕にかかる。その小銃は驚くほど手に馴染んだ。そして、奇妙な懐かしさを覚える。その不思議な感覚に、優は首を傾げた。
「どうしたの?」
 小銃をじっと見つめたまま固まる優に、奈々が心配そうな声をかける。優は顔をあげて、何でもありません、と答えた。
「前期過程で習ったはずだけど、これがフレイニングと呼ばれる小銃。実弾は利用しないから暴発の心配はいらないし、装填する必要もない。初心者向けの火器と言える」
 奈々が安全装置を外す。
「まず、安全装置を外して」
 優は奈々の動作を真似て、小銃の安全装置を外した。カチャリと小気味良い音が響く。
「それで、構える時はこう。ここを肩に当てて、安定を図る。」
 奈々が遠くの的に向かって小銃を構える。優もそれに続いた。
「そう、それで、頬をストックに密着させて。そう。そのまま的を狙って撃ってみて」
 優は思わず奈々を見た。
「あの、どうやって撃つんですか?」
「エネルギーを込めて、引き金を引く。それだけ。小銃に取り付けられた供給機構が勝手にESPに反応するから、少し力を込めるだけで良い」
 言われた通り、優は力を込めて引き金を引いた。発砲音とともに、小銃から翡翠の閃光が走る。そして、小さな反動。優は反射的に目を瞑った。
「……初めはこんなものだから、気にしないように。訓練を重ねるうちに上手くなるから、頑張ってね」
 微かに落胆の色が混じった奈々の声。
 目を開けると、的から何メートルも離れた位置から煙があがっていた。
 優は素直に頷いて、もう一度小銃を構えた。
 よく的を狙って引き金を引くと、銃声とともに的が弾け飛んだ。
「良い狙いだわ」
 後ろから僅かに弾んだ奈々の声。優は小銃を下ろして、首を振った。
「……二つ隣の的を狙ったんです」

◇◆◇

 情報は、歪んでいく。
 それを明確に認識したのが何歳の時だったのか、もう覚えていない。
 ただ、その歪みを恐ろしいと思ったことだけは、明確に覚えている。
  重要な何かが、隠されていく。重要な何かが、聞こえなくなる。そうした雑音に対して、神条奈々はある種の恐怖感さえ抱いていた。そのまま現実がノイズによって塗りつぶされていくのではないか、という妙な恐怖に襲われる事もあった。
 こうした奇妙な恐怖感を持つのは、思春期ではよくあることだと、奈々自身思う。自分以外の人間はロボットではないか、とか。子どもという存在は、正面から死という概念について考える為の前準備としてしばしばそうした哲学的なことを考えるものだ。ただ、奈々の持つノイズへの恐怖は、成長しても薄れることはなかった。むしろ、それは確固たる形をとり、その恐怖感から逃れる為、奈々は少しでも現実を直視しよ
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