暁 〜小説投稿サイト〜
儚き想い、されど永遠の想い
348部分:第二十六話 育っていくものその十四

[8]前話 [2]次話

第二十六話 育っていくものその十四

「生まれて。その喜びをこうして肌で味わうのは」
「それがですか」
「うん、楽しいよ」
 こう答えるのだった。
「心から感じているよ」
「では今は」
「ここにいるから」
 また言うのだった。
「声がかかるまでね」
「それでは」
 佐藤は今はこう言うだけだった。三人はそこに留まり続けた。そうして。
 やがてだ。部屋の扉が開いた。開くその動きはやけにゆっくりと感じた。
 その扉が開くとだ。中からだ。
 白衣の医師、中年の男が出て来てだ。そうして言うのだった。
「どうぞ」
「部屋の中に入っていいのですね」
「はい、そうです」
 医師は穏やかな笑みで義正に答える。
「どうぞ」
「わかりました」
 義正は医師の言葉に頷き。それからだった。
 部屋の中に入る。そこは洋室でベッドが置かれている。本来は客用の部屋だ。
 しかし今は真理の出産の部屋に使っている。その部屋においてだ。
 彼は見た。ベッドに横たわる真理の傍らに置かれた小さなベッドの上にだ。赤子がいるのを。
 その赤子を見てだ。彼は言うのだった。
「この子が」
「はい」
 ベッドの中の真理がだ。微笑みだ。
 そのうえでだ。義正に言ってきた。
「そうです。この子が」
「私達の子供です」
「男の子です」
 義正の後ろからだ。医師が答えてきた。
「丈夫な男の子です」
「そうですか。男の子ですか」
「もう産湯は済ませました」
 医師は義正にこのことも話した。
「後はよくです」
「この子を見ていいのですね」
「是非そうされて下さい」
 医師は声を微笑まさせて彼に告げた。
「奥様と共に」
「わかりました。それでは」
 義正は医師の言葉に応え。そうしてだった。
 その子に歩み寄る。そのうえでその顔を覗く。その顔を見てだった。
 彼はだ。自然にこの言葉を出した。
「目と口、そして鼻は」
「あなたのですね」
「はい、私のものです」
 こう妻にも答える。
「間違いありません」
「そして髪と顔の輪郭は」
「貴女ですね」
 今度は義正が真理に言った。
「そうですね」
「この子は間違いなくです」
「私達の子供です」
「その子が今産まれました」
 このことをだ。真理は今言った。
「私達の結晶が」
「愛の結晶が」
 それがだ。今生まれたのである。そのことをだ。
 義正は今このうえなく幸せに思っていた。真理と共に。そしてその幸せの中にだ。至上の喜びさえ見出し浸っていたのだった。


第二十六話   完


                     2011・9・22

[8]前話 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ