暁 〜小説投稿サイト〜
鎮守府のみかんの木
4.秋
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で切磋琢磨し合える友と出会え、軍籍ではない友も出来、平和でのどかな日々を過ごせている」

 ……ふむ。特に彼女の笑顔に陰をさすような理由は見当たらないが……

「戦いから遠ざかった生活を送ることはいささか残念ではあるが……それでも、誰も死なない……死ぬ必要がなく、死ぬ危険がないということは……とてもうれしい。だが……」

 そこまで言うと、ロドニーはうつむき、押し黙った。口に出すか出すまいか……そう悩んでいるようにも見える彼女は、やがて小さな声で静かに、口を開いた。

「……この楽しい日々を、イカズチにも過ごしてもらいたかった」

 いかずち? 私の知らない名前だ。誰だそれは?

――主にとっての、はじめての日本での友だ
  戦闘において我が主をかばい轟沈した、駆逐艦のイナズマの姉だ

 そんな声が聞こえた。まるで西洋の騎士のような、凛々しく、そしてどこか優しい男性の声だ。この声の主は恐らく、ロドニーが腰にぶら下げている剣だ。

 己の剣にそんな話をされていることも気づかず(当たり前だが……)、ロドニーはその剣に左手を添え、そして話を続けてくれた。

「手紙の中でビスマルクが、『彼女にも、この平和な世界を見せたかった』と言っていた。ビスマルクにとっても、イナズマは初めての日本での友だったそうだ。……無邪気で優しいイカズチのことだ。きっと妹のイナズマのように、深海棲艦たちとも、すぐに仲良くなれたろうに……」

 そう話すロドニーの眼差しは、私の向こう側に見える水平線の、ずっと向こう側を見ているように見えた。

「私の命を助けてくれたイカズチのことを忘れたことは一度もないが……改めてビスマルクにそう言われ……何やら昔のことを思い出してな」

 なるほど。今は亡き友のことを思い出し、少し憂鬱な気分になってしまっているらしい。

 私には、そのイカズチという者の気持ちは分からぬ。本人がこの場にいない上、すでに他界してしまっている以上、本人が何を思いロドニーを見守っているのかは、見当がつかん。

 だが、きっとこれだけは言える。ロドニーよ。イカズチは、お前が今もイカズチとの思い出を大切にし、時々そうやって思いを馳せていることが、きっと嬉しくもあり、そして少し悲しくもあるだろう。

 笑顔で思い出すのは構わない。『イカズチと過ごした毎日は、とても楽しいものだった』と笑いながら振り返るのは、とてもうれしいことのはずだ。

 だが、そうやって憂いを含んだ表情で思い出されては、きっとイカズチの笑顔も曇ってしまうだろう。イカズチはお前にとって大切な友なのだろう? 友の笑顔を曇らせて、お前は平気な女なのか? お前はそんな女ではないだろう?

 ……よし。今日は特別サービスだ。今年一番目の私の実を、お前に食べさせ
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