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恐怖を味わった高校生
恐怖を味わった高校生
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分の顔を感じる。
 軍人達は、カエル、ネズミ、ミミズ、植物なのか動物なのか区別出来ない物をくわえている。一人の軍人は、毛深い男の足らしき物体をくわえているのだ。
 狂わしくて、おぞましい身の毛もよだつ奇怪な光景だ。
 隙を見計らって一切後ろを振り向かず、勉は、喫茶店から脱兎の如く一目散に逃げ出した。
 今度は、脱出に成功した。
 喫茶店を飛び出すと、上空には抜けるような真っ青な空があり、ムクムクと大きく発達した入道雲が幾つも浮かんでいる。白っぽい太陽が、ジリジリと、容赦なくアスファルトを焦がしている。遠慮なく真夏の太陽の熱気と湿気が、じっとりとまとわりついてくる。とにかく、喫茶店から一歩でも遠くへ逃げようとして、無我夢中で走った。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」
 息をはずませながら走って行くと、うるさい蝉しぐれに満たされている古びた公園に、辿り着いた。太陽の位置は、ほぼ真上にある。暑さのせいと昼時なのだろうか? 公園には誰もいなかった。長い間、水飲み場を独占して喉を潤し、頭にも水の恵みをお裾分けした。ようやく冷静さを取り戻すと、日陰になった木製の椅子に座った。頭上には藤棚があり、青い葉を幾重にも茂らせている。まだ、勉の息はずんでいるのだ。
 芭蕉の句に、「くたびれて宿かるころや藤の花」とある。その句の通り、勉は、心身ともにくたびれていた。藤は、四月〜五月に、淡い紫色または白色の花を、房状に垂れ下げて咲く。
 しかし、真夏の今は葉が青々と茂っている。四本の太い藤の樹が、約、縦四メートル、横九メートルの藤棚を形成している。彼は、ボンヤリと何も考えないで、木製のテーブルと対になった椅子にもたれて一息ついていた。
 忌まわしい喫茶店での出来事が、勉の脳の端から端までグル、グル、グル、グル……と駆け巡る。そして、幾多の疑問の渦に巻き込まれたのだ。
 学校を出たのは、確か、寒風が吹きすさぶ真冬だったのに、今は、身を焦がすような真夏だ。勝気な性格だが、「虫」と聞くだけで、全身寒気がして卒倒しそうになる。だのに、卒倒もしないでウジ虫等を退治できた。見るからに、恐ろしい人達に囲まれていたのに、あまり気にもならず、堂々としていた事。生きている人が二人しかいないのに、四つのコップ運ばれてきたのは、どうしてだろう? ママと呼ばれていた陰気な老婆にも、彼と同様に、醜い怨霊がはっきりと見えていたのだろうか? ――体が、半分以上溶け出した異様な姿をした死人。もう既に骨だけになって、クモの巣に覆われていた骸骨が―― 
 TV等の映像でしか観た事がない軍人を、帝国陸軍兵だと、どうして分かったのだろう? 
 あの様子から察すると、護衛艦に護られて自分達を迎えに来る輸送船が着岸する海岸に向かって、最前線の戦場から撤退中だったに違いない。
【当
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