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恐怖を味わった高校生
恐怖を味わった高校生
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膳を目の前にしても、お箸を使う気がおきなかったわ。食欲のない私は、芝生を敷きつめた屋外に出て、空を見上げた。
 すると、幾つもの煙突から、黒っぽい灰色の煙が立ち昇って行くのよ。煙は、霧雨の空に拡散して徐々に消えて無くなった。
『あの煙の一筋が息子だわ。とうとう、肉体は一条の煙と化して、天に上って行しまった!』
 そう思うと、悲しさが津波のように私を襲い、止めどなく涙が溢れ出したわ。
 窯に棺桶が入れられてから約二時間後、斎場の係員からていねいな説明を受けた。
 喪主の私は、窯から出された骨を真っ白な陶器の骨壺に喉仏……などを入れた。その後、親戚が残りの骨を、無造作に骨壺に押し込んだ。
 それを見ても不思議な位に、怒りどころか、何の感慨すらも湧かなかった。親戚の人が言うように、けがれを知らない義雄の魂は、真っ白な綿雲に乗って、天使達と仲良く遊んでいるはずだわ。
 親戚の人達は、私の家でまだ宴会をしたそうな顔をしていたが、片づけをしていないから、と言って婉曲に断った。だって、無遠慮な人達ばかりだもの!
 家に帰った私は、寒々しい空気に全身包まれた。やはり、息子がいない心の寂しさで、私に凍るような冷気を感じさせたのだろう。両親の位牌をおまつりしている、仏壇の前に、骨壺を安置し心安らかに天国で暮らしてね、と拝んだ。
 突然、私は、空腹を感じて、テーブルに、今朝のおかずと冷えきったお茶碗半分のご飯を置いた。喪服を普段着に着替えるのももどかしく、急いで食事を平らげた。それでも、少しも空腹は満たされなかった。何気なく陶器で出来た骨壺をガラー、ガラー、ガラー、ガラー……と鳴らせた。空腹に耐え切れず、美味しそうな骨を四つばかり口に含んだ。すると、今まで味わった料理を、はるかに凌駕≪りょうが≫する無上の味が、ふんわりと口中に広がったわ。筆舌に尽くし難い程の美味だ。病み付きになりそう……いえ、病み付きになってしまったの。
 その日以来、夜毎、車のトランクに必要な物を載せた。懐中電灯、先の尖った剣スコ、先が平らな角スコ、軍手……など。
 カーナビを頼りに墓地を探し、土葬しているお墓を見つけ出すと、死体を掘り出すの。ウジが大量に発生し、あらゆる所に這っている溶けかけの遺体が、入っている棺桶。既に、ミイラ化している遺体や骨だけになっている遺体の入った棺桶。
 私は、それらの棺桶を夜の静けさを乱さずに解体し、更に、まだ肉が付いている遺体は、登山ナイフを使って骨だけにして、美味しくいただき餓えを満たしているのよ。だけど、お寺にあるお墓は、二つの意味でダメなの。一つは、お寺の関係者がいて、発見されるかもしれない危険があるから。もう一つは、骨壺を出すのに凄く時間と骨が折れるからなの。
 だって、息子の骨なんかでは、一日たりとも満足できなかったもの。……貴男には分かるで
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