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恐怖を味わった高校生
恐怖を味わった高校生
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していた。
 更に、眉間に幾筋も深いシワを寄せているのだ。普段の吉田さんとは、別人のような暗い雰囲気を周囲に漂わせていた。
 蔦≪つた≫が我が物顔で伸びて壁全体を覆っている、喫茶店へと勉を誘った。そこは、とても陰気で小さな喫茶店だった。何か重大な話があるような、深刻な顔をした吉田さん。そんな吉田さんの顔を勉が見たのは、この時が初めてであった。
 勉は、生まれて初めて喫茶店に入るので、心臓が口から飛び出す程にドギマギしていた。
 落ち着きなくキョロキョロと周囲を見回す。
 店内は、寒い位にヒンヤリとエアコンが効いている。この寒さは、エアコンのせいばかりでない。この店に漂う冷気も作用しているように思えるのだ。
 吉田さんは、薄暗くて陰気な四人掛けの椅子に彼を誘導し、差し向かいで座った。
 店内は外見と同じく、いやそれ以上に老朽化していた。身震いするような不潔さをさらけ出しているのだ。多分、オープン以来一度も改装していないだろう、と勉には思えた。
 おぞましい不潔さを無視しようとしたものの、彼は何度も全身が打ち震えたのだ。体がこわばる程、凄く緊張していたのも確かだろう。勉は、椅子に張った布が所々ほころびているのを、目敏く見つけた。
(この不潔さは、喫茶店には全くふさわしくない! なぜ、こんな店に誘ったのだろう?)
 彼だけでなく誰でも抱く第一印象は、不潔感だろう。こんな店に、女性の客は決して入ってこない。店の前を歩くのでさえ、嫌悪感で全身に鳥肌が立つに違いない。それ程、店外にも悪臭が漂う不潔そのものの店だ。考えられない位の不潔さが原因だろう、彼の喉にヒリヒリとした痛みが走った。本来なら、この時間帯には、帰社する前の営業マンで賑わっている筈なのに……。
 しかし、お客は勉と吉田の二人だけだった。カウンターをも含めて、四十四席もあるにもかかわらず……。
 汚れてシワだらけの灰色のカーペットには、何かが蠢≪うごめ≫いているのが、彼の目に入った。
(何がいるのだろう?)
 目をこらして観察した彼は、気持ち悪くて思わず大きな悲鳴を出した。
「ギヤーアアアアアアアァァアアアアアアアアアアアアァァアアアアア……」
 薄暗い中を、ゴキブリが触覚を動かして辺り構わず、ゾロゾロ這い回っている。体長が、約七十ミリメートルもある大型マダガスカルオオゴキブリだ。おびただしい数の大きなゴキブリを目にして、胃液が逆流して吐きそうになった。同時に、悪寒が背筋を走ったのだ。こんな状態は彼の想像をはるかに上回っている、おぞましさだった。
 でも、吉田さんの手前、無理して平然としているように、勉は演じた。
 薄暗い照明に、背後から照らされた吉田さんは、まるで【悪霊】に憑かれたような恐ろしい形相をして、彼に言った。
「遠慮しないで、何でも、注文していいのよ。そうねぇ
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