3.夏
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夏。私の体中に小さな実がつきはじめ、全身がむずむずとかゆくなってくるこの季節。太陽が照りつけ地面から水分を奪い、のどが渇いて仕方がない。
『キシャァァアアア!!! ォォオオオシ!!! ツクツクツク!!! ニーヨーイィイイイイ!!!』
忌まわしいセミのやつが時々私の身体にしがみき、私の体液を吸い取っていく。おかげで、たたでさえのどが渇いて仕方ないのに、さらにのどが渇いていく。喉の渇きと全身のムズムズに今日も耐えて、お日様の光を浴びて光合成を行っていたら。
「貴公! はじめましてだな!!」
そんな男の声が聞こえ、チャリチャリと何か金属同士が擦れる音と共に、ずいぶんと妙な格好をした変態が姿を表した。その手に持つプラスチックのバケツの中には、剪定バサミと思しきものが入っていた。
「ああ、貴公もどうやら、亡者ではないようだ」
私も人と触れ合うようになってもう10年近くたつが、私もまだまだ精進が足らないようだ。真夏のこの時期に頭に金属のバケツをかぶり、全身に太陽のマークが入った分厚い服を着込むこの男の言っていることが、私には最初さっぱり理解出来なかった。
「俺は太陽の騎士ソラール。俺の太陽から聞いているかもしれないが、今日は貴公の摘果をさせていただくために来た。初めてゆえ至らぬ点もあるだろうが、そこは勘弁していただきたい」
そういってこの男は私の前で、両手を斜め上に伸ばして両足をキレイに揃え、背伸びをするように伸びている。この動作が一体何を意味するものなのか、私にはさっぱりわからなかった。その後この変態自身が……
「ちなみにこのポーズは太陽賛美という」
と説明をしてくれたのだが、やっぱり意味がわからなかった。
「本当は俺の太陽も一緒にここで摘果をさせていただく予定だったのだが……許してほしい。彼女は急な用事が入ってしまったので、本日は俺だけで摘果をさせていただく……」
この変態……ソラールはそう言いながらバケツの中から剪定バサミを取り出し、私の枝に鳴る小さな実を一つ取ると……
「ふんッ」
と小さな声を上げ、その小さな実をパチンと切り落とした。その瞬間、私の全身を言い知れぬ快感が走り抜けていく。
我々みかんは、必要以上に果実をつけてしまうよう、身体ができてしまっている。そのままではすべての実に栄養が充分に行き渡らず、その結果すべての実が、小さく、美味しくない実になってしまう。
そのため、毎年美味しい実をつけるためには、適度に小さい実を摘み取る『摘果』という作業が必要不可欠だ。摘果を行うことで、残りの実に栄養が行き渡り、それらが甘く美味しい実となるのだ。
「ふんふ〜ん……たいよ〜ぅ……俺のぉぉおう……」
必要以上になってしまった実は、人間で言えば
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