3.夏
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『伸びすぎた爪や髪の毛』みたいなもので、そのままほおって置くと私自身もとても気持ちの悪いものなのだが……
「♪〜たいようだぁ〜からぁあ〜……んん〜♪」
このソラールという変態……はじめてとは思えないほどの正確な摘果の腕前だ……不必要な実を的確に選び、そして確実に摘んでいくその所作は、熟練の農業従事者を思わせる。
「♪〜……おっ。これも摘み取らねば……パチリ」
そしてこの鮮やかなハサミさばきはどうだ。まるで私の快感ポイントを知っているかのようではないか。この変態が剪定バサミをパチリと鳴らす度に、私の全身をスッキリとした心地よさが駆け巡っていく。
そうして暫くの間、この変態のハサミの鮮やかな腕前に酔いしれた後……変態が剪定バサミをバケツの中に入れ、私の全身をしげしげと見つめた。
「……よし。こんなものだな。貴公のみかんは実にうまいと聞くが……これでさらにうまいみかんを、その身に宿すことができるだろう」
摘果が終わったようだ。私の身体もずいぶんとスッキリした。余計なものをハサミで切り落としたおかげだろう。身体が軽い。今なら風に乗ってどこまでも飛んで行くことができそうだ。無理だけど。
「……知っているか貴公」
そう言って変態が、私から視線を外した。彼の視線の先にあるのは、真夏の太陽。やる気を必要以上に振りまき、その熱意とやる気で、日本全土を余すことなく照りつけている。
「貴公がうまいみかんをその身に宿す条件……それは、太陽の光を充分に浴びることだそうだ……太陽は偉大だ……我らを温かく見守るだけでなく、貴公に素晴らしくうまいみかんを届けてくれる……まるで、我々を導き育ててくれる、父のようだ」
この男……口を開けば太陽太陽と……しかしこの変態が言っていることもあながち間違いではない。
お日様の光を存分に浴びた年の私の実は、鳳翔が『今年のみかんは甘酸っぱくて美味しいですねぇ……』と満面の笑みで褒めてくれるし、逆にあまりお日様の光を浴びることができなかった時は、『くぉッ……!? 赤城!? 今年のみかんはなぜこんなに酸っぱいんだッ!?』とロドニーが悶絶している。
この男……伊達に太陽太陽と口走っているわけではないということか……私とお日様の関係を的確に把握しているとは……。
「!? 貴公!?」
急に変態がしゃがみ、私の根本の土をすくい上げた。私の根本は連日お日様が照りつけているせいで、もはや砂のようにサラサラに乾燥してしまっている。
「土が乾燥しきっているではないか!」
気のせいだろうか……鉄のバケツを被るこの変態の額に、汗が見えたのは……
変態は『少し待っていてくれ……』というと、私の前から姿を消した。時々『がちゃどちゃり』と音を立てて前転し、背
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