夜怪盗
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継ぐ者ならば」「黙れ!!!」
俺は幾重の鳥居を駆け抜けて、拳を振り上げ…奉のこめかみに叩きつけた。
ちゃりん、と軽い音をたてて眼鏡が転がり、その瞳が露わになった。…背中に冷たい汗が伝った。
奉の瞳は、鴫崎を呪った『あの時』と同じ、深紅を宿していた。
「……下がれ!!」
奉が叫ぶや否や、参道を覆う木々の枝がへし折れ、唸りを上げて飛びかかって来た。鋭利な枝が俺の頬を掠めたのを皮切りに、それこそ矢のように降り注いで来た。飛び交う枝が巻き起こす疾風が俺の体中を掠め、切り裂いていく。掠める度に、強引に?がれた生木特有の強烈な青臭さが鼻を突いた。少し遅れて、切り裂かれた傷口に鈍い痛みが走った。
鎌鼬で凌げたのは半分くらいだろうか。最後に突進してきた松の枝をよけた瞬間、バランスを崩して俺は石段を転げ落ちた。
「青島殿!!」
連なる鳥居の中程まで来ていた島津が、辛うじて受け止めてくれた。
「助かった」
礼を云おうと顔を上げたが、島津は俺を見てはいなかった。
「―――確かに貴様は南条ではないな。貴様は…もっと」
恐ろしい、何かだ。
そう呟いて、島津は突如『抜けた』。薄暮の石段に残るのはへし折られた大量の枝と、呆然と立ち尽くす縁ちゃん、そして血みどろの俺と…何が起こったのかさっぱり分からず、おろおろと辺りを見渡す『鴫崎』だった。俺以外の皆の無事を確認すると、俺は鳥居の果てに立つ奉を見上げた。…只の黒い瞳が、俺を見返してきた。
そう云えば本気で殴るのは初めてだった。場違いにも、そんな事を考えていた。
奉が俺を『呪う』のも、同様に初めてだった。奉の『呪い』が極めて自動的で、自分で制御できないことは知っている。それに奉は俺に『下がれ』と叫んだ。呪いの発動を感じて、咄嗟に警告したのだろう。だから俺は奉を責めないし、奉も言い訳をしない。ただ殴られた頬はそのままに、真っ直ぐに俺を見返していた。
「……いいわけないよ」
ただ立ち尽くしていた縁ちゃんが、ふいに顔を上げた。
「私のやったことで、契約を切りにくくなったことは分かったよ。私が子供達を連れ出さなければ、あの子達は怨霊から玉群を守ってくれたんでしょ」
縁ちゃんは真っ直ぐ、奉を見上げた。子供のような口調なのに、その横顔は妙に大人びて見えた。
「だけどその子達は長いこと苦しんだ上に盾にされて、そんなのいいわけないよ!」
「……そうだねぇ」
奉はとても軽く、相槌を打った。
「ならばお前は、誰も傷を負わない方法を知っているのか?」
「………分からない」
「なら、今はまだ動くな。玉群は既に、誰も無傷ではいられないような業を背負っているんだよ。事情も分からない、力もない子供が考えなしにヤバいものに手を出すんじゃない」
「………」
「長男が家に戻らない限り、どうあが
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