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霊群の杜
夜怪盗
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せておきたいのだ。南条の娘」
「南条じゃないもん!」
「玉群とは、嘗てこの一帯を支配した豪族・南条の成れの果てよ」
「………え」
俺の背に寄り添ったまま佇む縁ちゃんの横をすり抜け、島津は参道脇に広がる薄暗がりの雑木林に目を凝らした。
「ふぅむ…一度出てしまうと、戻り方も分からなくなるのだな…」
懐かしさと嫌悪感を少しずつ含んだような奇妙な表情を浮かべ、薄暗がりをひたすら凝視する。
「この男に宿ってのち、郷土史や様々な文献を漁って色々調べたのだ。…この辺りで一番の勢力を誇る豪族であった南条に関する記述は不意に途絶える。そして同時に現れたのが玉群。消えた『南条』とほぼ同等の力を持って突如現れるのだ。…何の準備も前触れもなく。そんなことがあるか」
ぐびり、と喉が動いた。


玉群が南条であることが、島津にばれた。


気取られないようにそっと、島津の様子を伺う。島津は静かに…不気味な程静かに藪の暗がりを見つめている。両腕をだらりと垂らし、とても遠くのものを見つめるように目を凝らす。
「島津は、あの戦の後間もなく途絶えた…らしい」
ふと思い出したように、島津が呟いた。
「えー、島津って結構聞くよね。鹿児島とかで」
「その島津とは違う。女は黙っておれ」
島津はイラついたように縁ちゃんを嗜め、俺に向き直った。
「この辺りの島津は滅びていたのだよ。南条によってではなく、他の豪族によって」
「え…あの戦で島津が滅びたんじゃないんですか」
「あの戦に参加した島津は、我だけよ。まぁ…一種の派遣、だな」
「そんな頃からあったんすか、派遣」
喋りながら俺は、少し妙なことに気が付いていた。
南条への妄執にとり憑かれていたこの男が、穏やかに島津の『終わり』を述懐する。ついこの間まで、あんなにも南条を滅ぼすことに拘っていたのに。そしてこの口調。まるで…。
「……なんか、他の人と話しているみたいな」
つい、口に出してしまった。しかし島津は俺の言葉には答えず、そのまま縁ちゃんに向き直った。
「このまま、屋敷の子を攫い続けるのか?夜盗怪の姫君よ」
「……やとうかいって何?」


「人を攫う、妖よ」


連なる鳥居の出口付近から、その声が聞こえた。島津は弾かれたように振り返り、鳥居の果てを見上げた。薄暮の淡い光を背に、蓬髪と羽織を軽く靡かせる影が、そこに在った。
「……南条の」
奉の口の端が、にぃ…と吊り上がった。
「南条じゃねぇよ。…何度云えば、分かるのかねぇ」
「そのような欺瞞がいつまでも通じると、よもや思ったわけではあるまいな!」
「思ってないねぇ。その上で云うのだ…俺は、南条じゃねぇよ、と」
小さく笑うと、奉は左手で何かを切るような仕草をした。それは何というか…とても禍々しい、何か冒涜的な気配すら感じる動き
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