夜怪盗
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「……どうして」
縁ちゃんの声が、少し低くなった。事情を知らない鴫崎を警戒しているのだろうか。…いや、鴫崎はあれで意外と勘がいい。奉が鎌鼬に切り裂かれた一件も、相当おかしな事件だったが何一つ追及されなかった。云わずとも、何かを感じ取って質問攻めを避けてくれているのだ。…多分。子供達の事をそこまで気にしているわけではないが、行きがかり上、俺は言葉を続けた。
「少なく、なってるだろ。屋敷の中の子供達」
「………そうかな」
縁ちゃんは言葉を濁した。…意外。俺は縁ちゃんは気が付いていると思っていたのだ。
「出て行ってるのかな。それとも、誰かが手引きをして…」
「何でそう思うの?」
ふいに言葉を遮られ、俺は思わず縁ちゃんを直視した。縁ちゃんは鴫崎に気取られないように、少なくとも俺にしか分からない程度に語気を強め、繰り返した。
「どうして、そう思うの?」
―――俺は、全てを察したような気がした。
「縁ちゃん…だったのか」
我知らず、呟いていた。まだ冷たい風に頬を弄られ、俺達は一瞬歩みを止めた。
「―――何が?」
「いや…何でもないよ」
俺は普通に話せているだろうか。こめかみを伝う汗が二筋に増えた。
「はぐらかさないで」
もはや誤魔化しようもない程、縁ちゃんの語気が強まった。…内心、臍を噛む思いだった。何故俺は、つまらないことを云ってしまったのだろう。こんなことなら向こう1週間程度、からかわれるほうがましだったのに。
「…縁ちゃん、あとにしよう、今は…ほら」
「夜盗怪と成り果てたかの、南条の姫君よ」
からかうような声が、頭上から降り注いだ。縁ちゃんが弾かれたように鴫崎から距離を取る。鴫崎はにんまりと笑い、首を傾げた。俺は一応二人の間に入るが、『彼』から敵意のようなものは感じられない。
「やとう、かい?」
「永のご無沙汰、誠に失礼仕った。供物は有り難く頂戴しておる」
「島津氏…?」
結界のうちに閉じ込められた戦場に迷い込んだあの日、俺が出くわした武士の亡霊。島津清正、といった。
「いかにも」
機嫌よく応じると、島津は再び薄笑いを浮かべて縁ちゃんを見下ろした。
「この間の…!」
かつて鴫崎に憑依して、自分たち兄妹を苛んだ武士の亡霊を縁ちゃんは忘れていなかった。縁ちゃんはそっと俺の背後に回り、俺の上着の裾を掴んだ。…幼い頃からの、何か不安を感じた時のポジションだ。あの頃の彼女は、奉よりも俺を兄のように頼り、ついて回っていたっけ。柔らかい体温が、背中をじわりと暖めた。
「この子はもう南条ではないと、この間、納得したのでは」
少しだけ語気を強めて、俺は鴫崎…いや島津に向き直った。
「ふむ…大恩ある青島殿に弓を引くわけではない。が、我は南条に怨恨を持つものとして、これだけははっきりとさ
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