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霊群の杜
夜怪盗
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「JKだけど何で今更?」
いかん、あんな下らない夢の世界観に引きずられてしまっている。鴫崎をゴリマッチョとか云いだす前にあの夢の事は忘れよう、早急に。
「この宅配便の車の脇にうち捨てられた段ボールは、やっぱり?」
「おう、あの馬鹿の荷物だよ」
「鴫崎…お前、よその荷物もこんな扱いしてないだろうな…」
縁ちゃんが最後の段ボールを石段の途中まで持ってきてくれていたお陰で、随分と時間が短縮できた。段ボールを受け取り、俺達は再び石段を上る。
通い慣れた石段を、すらりとした脚が軽々と駆け上がり、俺を追い越していく。その瑞々しい脚を少し下のアングルから眺めることに微かな罪悪感を感じ始めたのは、いつからだったろうか…。だが俺はぼんやりと駆け上がる縁ちゃんの後姿を下のアングルから見つめ続ける。
「ねーねー配達員さん、りんちゃんの写真見せて下さいよー」
リスのような目をくりくりさせて、縁ちゃんが鴫崎を覗き込む。思えばこの二人も奇妙な関係だ。随分昔からの知り合いではあるし、昔は一緒に遊んだこともあるのだが、俺ほど深く関わっているわけではなく、近所の知り合いというほど他人行儀でもない。…親戚のおじさんくらいのポジション。そうだ、それが一番しっくりくる。鴫崎がとっとと身を固めて『そういう対象』から外れたことが影響しているのだろうか。
「お、見ちゃう?うちの天使見ちゃう?」
鴫崎が相好を崩して、いそいそとスマホを弄り始める。縁ちゃんもスマホを覗き込んで『キャーまじかわいいー』とか普通に女子高生みたいなことを云い始める。一般人の俺に荷物持たせてゴリマッチョとJKは大盛り上がりだ。
―――しっくりくる関係。この二人を現すのに、とてもピッタリくる言葉を今、思いついた。
丁度いい年齢の離れ具合、性別の違い、相性の良さ。お互い衝突する要素もなく、いつでもしっくりくる関係なのだ。いつか縁ちゃんが選ぶ男は、俺ではなく鴫崎のような豪放磊落な体育会系なのだろうか。…俺にモヤモヤする資格などないんだが。
「んん?なにぼんやりしてんの?」
縁ちゃんが覗き込んできた。柑橘系のコロンが軽く香り、俺は性懲りもなくどぎまぎする。どうも最近、男との距離の取り方とか、声の掛け方とか…周りに悪い見本の影が見え隠れする。
奉は本当に、飛縁魔を放任状態にしてよいのだろうか。
「……や、ちょっと考え事してた」
そう云うしかない。彼女持ちの、しかも3つも年上の俺がJKの恋愛事情を想像してモヤモヤするとかきもい以外の何物でもないからな。
「へぇ、何考えてたの?」
―――責めるねぇ。
まだ早春だというのに、こめかみを一筋の汗が伝う。荷物を持っていて、本当に良かった。
「……いや……なんだ」
「んん?」
「玉群の、子供達のことを…」
思ってもみなかった言葉が咄嗟に口をついて出た。

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