夜怪盗
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今年は、桜が遅くなるらしい。
そんな話を、ニュースの気象情報で聞いた。それを裏付けるように、玉群神社の参道を縁取る桜の蕾はみっしりと硬い。
「今度こそ、俺はあいつを殺してもいいと思うんだ」
バーカウンターの端と端を持ちながら、俺達は言葉少なに石段を上る。
俺達が本来の産土神の保護から外され、奉の保護下(!)に強引に入れられてからというもの、奉はある種の責任を感じているようだ。本と机しかなかった書の洞に、俺達の居場所らしきものを作り始めたのだ。
ただ2000年以上もこの地に居着いていた癖に人付き合いを疎かにしていたせいだろうか。居場所を作るということを根本的に勘違いしているようなのだ。例えば俺の夢に出て来たバーカウンターを再現しようとしているが、俺も他の連中も、大して酒を呑まない。唯一酒好きな鴫崎は、宅配ドライバーだ。…バーカウンターなんかより優先順位の高いものが色々あると思うんだが…。
「何とも云えないが…好きで山の上に住んでおいて、思い付きで行動すんなよとは思うね」
「それな。…しかもあいつ、本もいつも通り注文しやがった」
「―――俺が来る前に、すでに一往復してたのか……。」
奉が書の洞の改築にも近いことを始め、そのとばっちりを最も深く重く受けているのは、鴫崎なのだ。ここ最近毎日、死にそうな顔をして玉群神社の石段を何往復もしている。俺に出来るのは、偶然を装って石段で待ち伏せして荷運びを手伝うことくらいだ。…何だこのトキメキのカケラもない待ち伏せは。
「助かったわまじで。お前が友達でよかった」
「報酬に、りんちゃんの最新画像見せてくれ」
仏頂面だった鴫崎が、にんまり笑った。
「この間、寝返りを打ったんだぜ。早いよな?これ絶対早いよな!?」
「お、おう」
3カ月程度での寝返りが早いのか遅いのかはよく知らないが。
「幸せそうで、よかった」
思わず口をついて出た。鴫崎の家に産まれた小さな命は、かつて俺の夢の中に潜み、奉を切り刻ませた子供達のうちの、誰か一人なのだから。束の間の、しかも仮の家族だったが、俺は夢の中でこの子達を慈しみ、育てた。だから良かった…と思う反面、この子以外の子供達のことを思うと、胸の中に暗い影が落ちる。
奉の殺害に失敗した後、彼らは何処に消えたのだろうか。
かつて奉が殺めた子供達の魂は、玉群の屋敷の囚われるように蓄積していき、その空気を澱ませていた。ここ最近、奉がほんのたまに玉群の屋敷に寄りつくようになり、俺も結果的に出入りが多くなっている。…以前に比べ、明らかに澱みが減っているのだ。
―――あいつなりに、何か考えがあってのことだろうよ。命まで落とすようなことはなかろうが―――。
奉が云う『あいつ』とは誰のことなのか、俺は知らない。だが奉は子供達の行き先を何となく、知っているのだろう。それが悪い
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