2.春
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春。同族にしてライバルの桜のヤツらの花も散り、そろそろ私の花が開く時期。私がその実力を遺憾なく発揮するのはやはり秋から冬にかけてだが、やはり植物である以上、花を咲かせる季節も華というものだ。花だけに。
そうして私が自分の花の美しさを、誰にというわけでもなくアピールしていたら、いつものように、鳳翔がやってきた。いつもの和服で、いつもの笑顔だ。
「わぁ〜……今年も満開でキレイですねぇ〜……」
私の努力も無駄ではなかったようだ。鳳翔は私ががんばって咲かせた花々を見て、満面の笑顔でそう言ってくれた。私が二番目に嬉しい言葉がこれだ。
「ほら智久さん。とってもキレイですよ?」
と鳳翔は、私の聞きなれない名前を口に出し、向こうを向いて笑顔で手招きをする。
「うわぁ〜……ホントですね。真っ白でとてもキレイだ……」
鳳翔が手招きした方からてくてくとやってきたのは、大きな荷物? と椅子を抱えた、一人の青年だ。鳳翔より少し背が高く、痩せ型で気が抜けた顔をしたその男は、一度その場に荷物を下ろして椅子を置くと、私の花に顔を近づけ、思いっきり息を吸い込んだ。
「すぅ〜……」
正直にいうと、くすぐったいので勘弁してほしいのだが……
「……はじめて知りました。みかんの花ってこんな香りがするんですね」
「ジャスミンに似ているでしょう? 心を落ち着かせる効果があるらしいです」
「へぇ〜……確かにこう、落ち着く感じがしますね。それに可憐だ」
鳳翔の話を聞き、改めて私の花の香りを堪能する青年の顔が、だらしなくニヘラと微笑んだ。この青年……だらしない表情以外は、なんとなくだが……鳳翔にとても似ている気がした。
ところで、鳳翔は今日は食堂の仕事はないはずだ。なぜここに来たのだろう?
「では鳳翔さん」
「はい」
私が疑問に感じていると、その青年……智久と言ったか。智久は椅子に座り、大きな荷物の包みを解いた。中に入っていたのは、智久の身体より一回りほど小さい楽器。私の同胞ともいえる木で出来た代物だったが、智久はその楽器を大切にしているのだろう。
――行くわよチェロ! 2人のために最高の歌を響かせるのよッ!!
――よくってよ弓姉様! 智久の思い、鳳翔に伝えるわっ!!
楽器から、そんなやる気満々な声が聞こえてきた。恐らくこの声に気付いたのは、私だけだろうが。
鳳翔は持っていたバッグからシートを一枚取り出して、それを地面に敷いてその上に座っていた。
「今日は何を聞かせてくれるんですか?」
「バッハの無伴奏チェロ組曲第1番ト長調って曲です。少し長いですが、心地よければ、途中で眠っていただいても大丈夫です」
「そんな……せっかく演奏していただいてるのに……眠るだなんてもっ
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