2.春
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……
そうしてしばらくの間、幸せな時間は続いていた。智久は最初『眠ってもいい』と鳳翔に言っていたが、そこは鳳翔も意地があったのだろうか。最後まで起きていた。
「智久さん……相変わらず優しくて……でも情熱的で、素晴らしい演奏でした」
「ありがとう……鳳翔さん。あなたにそう言ってもらえるのが、なによりうれしいです」
「……では今度は私の番ですね。それじゃあ食堂に行きましょうか」
「はい」
素晴らしい幸せの時間というものも、いつか必ず終りが来る。智久と鳳翔の意思確認の時間も然りだ。
――やったわ……今日も鳳翔に最高の演奏を届けたわよ……
――弓姉様……私、精魂尽き果てましたわ……
――休むわよチェロ……
――ええ……ねえさ……ま……
智久の手によって片付けられている楽器たちも満足そうだ。持ち主である智久の力になれたこと……そして鳳翔に智久の気持ちを届けられたこと……それが、とても嬉しかったのだろう。
私も鼻が高い。この、世界で最も優しい空間で、それを香りで演出することが出来たのだから。なんて私が胸を張っていたら。
「あの、……みかんさん」
すでに寝息を立てている楽器を片付け終わった智久が、私の元に来て話しかけてきていた。
「……あなたも、ありがとうございました。途中で、あなたの花の香りが、少し強くなった気がしました」
!? この男、私の香りの演出に気付いていただと!?
「鳳翔さんから、あなたのみかんはとても美味しいと伺っています。今年は僕にも食べさせて下さい。お礼に、またあなたの前で演奏しますから」
「ぷっ……智久さん? その時は私もご一緒していいですか?」
「はい! もちろんです! むしろ、僕の方からお願いします!!」
「はい。喜んで」
……なんという男……私の演出に気付いていたとは……この智久という男、油断がならん。
しかし智久は、また私の前で演奏してくれると約束してくれた。お前はいい子だ。気に入ったぞ智久とやら。私の実の収穫のときには、一番うまい実を食べられる権利をお前にやろう。
その後2人は寄り添うように、仲睦まじく私の元から移動し、食堂へと向かっていった。そんな二人の姿は、とても幸せそうだ。互いを深く信頼しているもの同士が見せる、最高に輝く笑顔を見せながら、夕日の中を歩いていった。
そんな二人の背中を見送りながら、私は、次の2人の演奏は一体いつ聞けるのか……そして、その時はどんな風に2人を祝福しようかと、思いを巡らせていた。
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