ターン87 鉄砲水と紫毒の記憶
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いうのなら話は別だが、そういうわけでもなさそうだ』
「だから、その体も今……」
いまだ闇に分解されつつある稲石さんの体に目を向けると、稲石さん本人も自らの消えゆく体に目を落とす。声を上げて笑うものの、すぐに咳込んでしまう。
「ああ、そうさ。闇のデュエルの敗者は闇に喰われるけれど、作り物の魂だけの存在な自分の場合は跡形もなく消えてもともとの闇に帰る。もっとも、ここに来てからもう17?いや、18年だったかな?もういい加減にガタが来てたからね、そろそろ成仏する頃合いだったのかもね」
自分という存在が、今まさに消えようとしている。たとえ作り物の命だろうと、それが怖くないわけがない。それでもいつも通りに飄々とした態度で強がってみせる稲石さんに、なんと声を掛けようとしたのかは自分でもわからない。でも僕が口を開いた瞬間、それを止めたのは稲石さん本人だった。
「いいから。自分にこれ以上構っているだけの時間は、今の君にはないはずだよ?それに稲石なんて存在はもともと存在しない、始めからこうなるのが自然の摂理さ。本当はもっと、自分の前世についても色々な話をしたい。君にとっても、これは無関係な話じゃないからね。だけどもう、それだけの時間はない……ただね、1つだけ君を心配する友人として、最後にアドバイスしてあげるよ」
「え……?」
次第に体の消滅が加速していき、もはやしゃべるのも辛そうだ。それでも稲石さんは僕の目を真っ直ぐに見て、最期の言葉を絞り出す。
「自分は今朝まで放置されていたレベルのできそこないだけど、より手駒として質の高い完成品が君の近くにいる。恐らくは、つい昨日までの自分と同じようにその記憶を消された無自覚の状態でね。昔、ある人が死んだ。自分はその人の魂の半分を元にして作られた人格、だけど彼女はその人の残りの魂にダークネスが手を加えて捉えた本物の生命。おそらくそれが、君たちの言うダークネスのこちら側からの協力者だ。いや、仮にダークネスが関係なくても、君は彼女と戦わなくちゃいけない。辛い戦いになるだろうけど、どうしても回避することはできない。君は君自身が考えるよりずっと前からダークネス、それから自分の前世たちには目をつけられていた存在なんだよ」
「い、一体何を……」
「わからないかい?河風夢想。1度しか彼女には会っていないけれど、前世の記憶を取り戻した今思い返せばはっきりとわかる。彼女は自分と同じ、自分のオリジナルだ。でも覚えておいてほしい、君が死ぬことは、自分も彼女も願ってはいない。気を……付けて……」
河風夢想。彼女の名を口にしてすぐ、稲石さんの体は、そして魂は2度と手の届かないところに消えてしまった。たくさんの謎と、大きな悲しみと引きかえに。
早く動かなくちゃいけない。三沢に頼まれた賢者の石を、早く調達しな
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