第四十一話 大江山その九
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「奪われた人達に返しますね」
「そうしよう、すぐに都に戻ってな」
賊を成敗し捕らわれていた者がいれば救い出し奪われたものがを確保してというのだ。
「銭も宝もな」
「全てですね」
「返す」
そうすると言うのだった。
「そうする」
「ご自身が手に入れられることは」
謙二は英雄の考えを理解しつつもその選択肢をあえて聞いた。
「されませんか」
「そんなことはしない」
これが英雄の返事だった。
「銭も宝もこれまでも戦いで余る程手に入れてきたしこれからもだ」
「手に入るからですね」
「どうでもいい」
賊達が都の民達から奪った銭や宝はというのだ。
「全て都の連中に返す」
「そうされますね」
「一銭も懐に収めないでな」
「すぐに手に入るからですか」
「巨人でも出ればすぐだ」
それこそという言葉だった。
「巨万の富が手に入るな」
「一体で驚くまでに」
「それこそ賊が貯めこんでいる程度はな」
「簡単に手に入るからこそ」
「どうでもいい」
「それにそもそもですね」
「全て都の連中のものだ」
その銭や宝はというのだ。
「それを奪うなぞな」
「とてもですね」
「この島を統一し世界を救う人間のすることではない」
だからだというのだ。
「そうしたことはしない」
「それでこそです」
謙二は英雄のここまでの確かな声を聞いて微笑んで答えた。
「世界を救える人です」
「民のものを奪わず返すことがか」
「そこで自分の手柄と懐に入れればです」
それではというのだ。
「それも成敗した者の功として許されるでしょうが」
「それは豪傑のすることだな」
「はい、賊を成敗しただけの」
それ止まりのというのだ。
「それだけです」
「そうだな」
「ですが返せば」
賊が奪ったものを奪われた者達にだ。
「それは英雄です」
「豪傑と英雄は違うか」
「豪傑は強い、そして正義を為しますが」
「それだけか」
「そうしたことまで考えないならです」
「只の豪傑か」
「強いだけの、悪を成敗して終わりの」
正義がここで終わるというのだ、豪傑のそれは。
「弱い者は虐げませんが」
「それはもう豪傑でもないな」
「賊です」
己の力を悪用して弱い者を虐げればというのだ。
「今から私達が成敗する彼等と同じです」
「それをしたらな」
「はい、しかし」
「豪傑はそれはしないな」
「賊と豪傑もまた違います」
こう英雄に話した。
「豪傑もまた傑物です」
「傑物なら弱い者は虐げない」
「悪を成敗します、しかしです」
「民が奪われたものを民に返すまではか」
「そこまでは至りません、しかしです」
「奪われたものを返せばな」
「英雄となります」
そうした存在にというのだ。
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