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【掌編置場】コーナー・オブ・テキストレムナンツ
レッドローズ・バレンタイン
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もう買ってある。けれど、それを渡して、生涯を共にしてほしいと頼むことができないのだ。

 何度か、それとなく機会を設けてみようと思ったこともある。だが、うまく体が動かない、というか。とにかく、エルシャへのプロポーズに踏み出せないのだ。

 なんでだろうな。こんなところでコミュ障を発動しているのかもしれない。断られたらどうしよう、とか、どういう言葉を添えればいいんだろう、とか、そういう事ばかり考えてしまうのだ。もっとシンプルに考えられればいいんだけどなぁ。中々上手く行かないもんだ。

 そんなことを思いながら、今日も俺は職場へ向かう。


 
 ***



「ねぇ、エルシャはどうするの? 今年のアンリ祭」
「え?」

 メロダック帝国首都、カール・トゥクルティニヌルタ。その一角に設けられた魔法大学の構内で、友人が放った言葉に、エルシャ・マルクトは首を傾げた。そういえば聖アンリエッタ祭はもうすぐなんだっけ、忘れてた――などと思いながら、問い返す。

 眼鏡を通して見えるのは、茶髪をポニーテールにした活発そうな少女。この大学に入ってからできた友人の一人で、白髪赤目という、今でもなおこの世界では若干避けられ気味な、エルシャの外見を気にせずに接してくれる数少ない人間の一人だ。
 そんな彼女が、普段の笑顔とは打って変わった少々厳しめの表情とジト目で、エルシャを見つめているのだ。

「今年の、とは……」
「今年のとは、って言っても。一つしかないでしょ。上げるんでしょ? チョコ。例の彼に。手伝いが必要なのか、ってこと」
「ああ……」

 その言葉で、全てを理解した。途端に、去年の同じくらいの時期に感じた申し訳なさがぶり返してくる。

「去年は大変だったんだからね。エルシャが急に『巨大ケーキを作りますので、お手伝いをお願いします』なんていうから言ったら、あたし一人じゃとてもじゃないけど足りないじゃない。他にも友達一杯呼んで、そのせいであたしたちの準備期間殆ど潰れたんだからね」
「それは、その……すみません。先輩が『巨大ホールケーキとか食ってみてぇよなぁ……折角魔法の世界なんだし……』などと仰っていたものですから……」
「相変わらず声真似上手いよねエルシャ……いやそうじゃなくて。またあーゆーことを企画してるなら、こっちも日程組まなくちゃいけないから早めに教えて、ってこと」
 
 ふむ、と思案する。
 去年は、恋人であり、魔法学校時代の先輩でもあったソレイユ・グノーシスの何気ない一言で火が付き、身の丈を越すような巨大なホールケーキを作成してしまった。結局ソレイユは「お、おう、これはまた……すげぇものを作ったな……」などと瞠目しつつも、一応全部食べてくれたのだが……暫くはケーキに対して見たくもないものをみた、といっ
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