レッドローズ・バレンタイン
[3/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
もう買ってある。けれど、それを渡して、生涯を共にしてほしいと頼むことができないのだ。
何度か、それとなく機会を設けてみようと思ったこともある。だが、うまく体が動かない、というか。とにかく、エルシャへのプロポーズに踏み出せないのだ。
なんでだろうな。こんなところでコミュ障を発動しているのかもしれない。断られたらどうしよう、とか、どういう言葉を添えればいいんだろう、とか、そういう事ばかり考えてしまうのだ。もっとシンプルに考えられればいいんだけどなぁ。中々上手く行かないもんだ。
そんなことを思いながら、今日も俺は職場へ向かう。
***
「ねぇ、エルシャはどうするの? 今年のアンリ祭」
「え?」
メロダック帝国首都、カール・トゥクルティニヌルタ。その一角に設けられた魔法大学の構内で、友人が放った言葉に、エルシャ・マルクトは首を傾げた。そういえば聖アンリエッタ祭はもうすぐなんだっけ、忘れてた――などと思いながら、問い返す。
眼鏡を通して見えるのは、茶髪をポニーテールにした活発そうな少女。この大学に入ってからできた友人の一人で、白髪赤目という、今でもなおこの世界では若干避けられ気味な、エルシャの外見を気にせずに接してくれる数少ない人間の一人だ。
そんな彼女が、普段の笑顔とは打って変わった少々厳しめの表情とジト目で、エルシャを見つめているのだ。
「今年の、とは……」
「今年のとは、って言っても。一つしかないでしょ。上げるんでしょ? チョコ。例の彼に。手伝いが必要なのか、ってこと」
「ああ……」
その言葉で、全てを理解した。途端に、去年の同じくらいの時期に感じた申し訳なさがぶり返してくる。
「去年は大変だったんだからね。エルシャが急に『巨大ケーキを作りますので、お手伝いをお願いします』なんていうから言ったら、あたし一人じゃとてもじゃないけど足りないじゃない。他にも友達一杯呼んで、そのせいであたしたちの準備期間殆ど潰れたんだからね」
「それは、その……すみません。先輩が『巨大ホールケーキとか食ってみてぇよなぁ……折角魔法の世界なんだし……』などと仰っていたものですから……」
「相変わらず声真似上手いよねエルシャ……いやそうじゃなくて。またあーゆーことを企画してるなら、こっちも日程組まなくちゃいけないから早めに教えて、ってこと」
ふむ、と思案する。
去年は、恋人であり、魔法学校時代の先輩でもあったソレイユ・グノーシスの何気ない一言で火が付き、身の丈を越すような巨大なホールケーキを作成してしまった。結局ソレイユは「お、おう、これはまた……すげぇものを作ったな……」などと瞠目しつつも、一応全部食べてくれたのだが……暫くはケーキに対して見たくもないものをみた、といっ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ